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5月7日S「雨の夏、三十人のジュリエットが還ってきた」

作:清水邦夫、演出:蜷川幸雄、シアタコクーン。この芝居82年に日生劇場で上演された。74年の現代人劇場・桜社解散で袂を別った石橋蓮司と蟹江敬三が再会して出演した芝居だったが、期待はずれで蜷川らしきもないつまらないしばいだった。蜷川も初演は失敗だったといっている。だから余り期待しないで出かけたが、まあ、見違えるような上出来な芝居になっていたのだ。これはなにより、三田和代演じるジュリエットの狂気の演技の迫力、ロミオにを扮した鳳蘭のあたりをはるような存在感に大きく負ったものだ。それと清水邦夫の劇作術のサンプルのような作品で、時制の跳躍、メロドロマテイックな巧みなストーリー、湧出するリリシズム、見事なダイアローグ、多彩な人物の個性鮮やかな輪郭、60年代らしい変革への希望というより憧憬、それらが渾然一体になって清水しか創れない世界を見せるのだ。特に終幕近くの三田と鳳のダイアローグなど、光彩陸離たる耳目を喜ばせる見事なもので、二人の演技の演技が頂点的にきわだった。その戯曲を蜷川が宝塚風に百貨店の階段をイルミネーションで飾って、それを中心に全てのシーンをテクストの限度一杯にあざといくらいに盛り上げる。結果、戦前に北陸の都市にあったという百貨店で上演された少女歌劇の話が空中楼閣のように立ち上がった。60年代からの清水・蜷川の盟友の集大成的な成果を感じさせる舞台だった。空の空たる「演劇」が、實の實たる「現実に対峙し、一瞬の砂上の楼閣が現実世界の傲岸を僅かでも打ち崩したと三田のジュリエットと鳳のロミオの満ち足りた「死」のラストシーンで確かに思わせたのだ。

by engekibukuro | 2009-05-08 10:59 | Comments(0)  

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