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8月31日(火)メモ




▼渡辺京二「黒船前夜ーロシア・アイヌ・日本の三国志」(洋泉社)を読んだ。ペリル来航・開国以前のロシアによるあの手この手の交易・開国の圧力を日本がいかに防いだか。今の北方領土にあたる千島列島の原住民のアイヌがロシア、日本にいかに圧迫され、馴致されていったか。その頃のロシアおよびロシア人の狂気じみたシベリア開発の有様、徳川幕府の柔軟というか右顧左眄の国外への対応など、北方問題の歴史が、これほど根が深く、日本が徳川時代から係わってきた実情が、蝦夷・北海道を舞台に様々な資料を選び抜き詳細に描かれた本だ。渡辺の名作「逝きし世の面影」と同様、ロシア・アイヌ・日本のそれぞれの局面で活躍した人々の人物像が見事に描かれ、”三国志”と副題されたそのまま、全体の物語の起伏がスリリングで、三国のイメージが歴史の中に溶解してページを追うのももどかしい。なにより「逝きし世の面影」と同じく、その時代の日本人の美質を外国人が賛嘆している記述が何より印象的。ロシアの軍艦艦長リコルドは、日本の海運の実力者・高田屋嘉兵平衛との交わりから「ヨーロッパの文明人諸君よ。諸君は日本人を狡猾凶悪で、復讐心が強く、甘美な友情などゆかりもないと考えているが、それは間違いだ。日本にはあらゆる意味で、人間という崇高な名で呼ぶにふさわしい人びとがいる」と書き、「日本幽囚記」を書いたゴローブニンも、日本の民衆の優しさと親切を賛嘆している。またアイヌについても日本の玉厘外史は「彼らが孝行、貞節、節操、美徳にすぐれているのはなぜであろう」と書き、ロシアのクルーゼンシュテインも「アイヌ個人の特性は心のよさであり親切である。彼等の容貌または手足の動静さえも、何か内に素朴なる尊いものをつつんでいることを示すようである」と書いた。酷暑を忘れたこの夏、最高の本だった。

by engekibukuro | 2010-09-01 09:00 | Comments(0)  

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