人気ブログランキング | 話題のタグを見る

9月12日(日)M「木の皿」加藤健一事務所

作:エドモンド・モリス、演出:久世龍之介、本多劇場。
 テキサスのある一家。次男夫婦と孫娘と一緒に住んでいる78歳のロン・デニソン(加藤健一)は、老齢からの衰えが激しく、瀬戸物の皿は触ると壊すので、こわれない木の皿で食事をする。ほかにパイプタバコの火の始末ができず、あやうく火事になることさえあった。その老人を一日中世話をする嫁のクララ(西山水木)はもう困憊して限度まできた。もう限界だと夫グレン(新井康弘)も納得せざるをえず、シカゴから長男フロイド(金尾哲夫)をよんで、父親に老人ホームに行くようにと説得してもらう。最初は頑固に拒むが、ついには好きなアラモの将軍のように堂々と死に立ち向かうべく決意して老人ホームに向う。この公演は三演目、老人問題を直視したエンアタ-テイメントとして、カトケン事務所の人気演目だ。、加藤も完全に手の内に入れて、切迫感が劇場にみなぎる。こちらも老齢化しており、人事ではなく、芝居の観賞どころではなくなってしまう。いやおうもなく老齢・死に直面してしまうからだ・・。そういうわけで、いろいろ脇筋があるが省く。役者ではこの家に下宿している男、エド・メイスンを演じたモダンスイマーズの小椋毅が、ヴェテランに伍して堂々と演じていたのが目を引いた。

▼メモ。伊藤比呂美「とげ抜き 新巣鴨地蔵縁起」を出版されてからかなりたつが、やっと読んだ。これぞ血肉が備わった見事な文章で感動した。熊本で重病で入院中の母、同じく病気をかかえた老齢の父、カリフォルニアの我が家でで暮らす、これも老齢のアメリカ人の夫、問題を抱えている長女、次女、三女はまだ幼い。この人たちの生活を一人で支えて、カリフォルニアと熊本を頻繁に往復する。しかも、その大変な状況の中で、詩を書き、読書し、人と会い、各地の名所も訪れる。さらに自分も手術を要する病気を持っている。壮絶な日々ではあるが、すこしも悲壮にならず、ユーモアたっぷりの、この生活記録は、まぎれもない純正な「詩」だ。自分の生地板橋に近い巣鴨のとげ抜き地蔵に集まる老女たちへの眼差しと思考が、死への類をみない相貌を浮上させる。いわば”生きている死”が見えてくる。

by engekibukuro | 2010-09-13 13:32 | Comments(0)  

<< 9月14日(火)M★「トロイア... 9月11日(土)M「タイタス・... >>