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11月21日S★東京藝術劇場小ホール2、★★同ホール1

★「この雨ふりやむとき」(作:アンドリュー・ボヴェル、演出:鈴木裕美)tpt
ボヴェルはオーストラリアの劇作家。オーストラリアとロンドンが舞台。ある家族の三代にわたる歴史を描いた芝居だが、時系列を追わず、出来事の場所も関連しない。現在、過去の中心的な出来事を謎のように提示して、つずりあわせてゆく。すべての場面、外は雨だ。シーンの切れ目は、雷鳴の轟き、豪雨の雨音で区切られる。そのため、最初は、誰が誰の子供でとかが解らないまま進んでゆくので、ジグソーパズルのピースのような感じで、それを解くのが芝居の見所の要素になっている。鈴木は、とくに説明的な演出をしない。出来事の強度そのものを強調する。観てゆくうちにパズルを解く楽しみと、家族の歴史が、人間というもの、家族のつながりというものの底なしの哀切感が並立して、味わい深い舞台が出来上がった。鈴木のテキストの読みの深さが如実に感じられた舞台だった。峯村リエ以下の俳優陣もよく鈴木の意を呈していた。tpthは前作「恐るべき親たち」に続き、芸劇小ホールでの公演、池袋への進出は大成功だ。
★★「-ところでアルトーさん、」(演出:三浦基、原作:アントナン・アルトー、翻訳・構成:宇野邦一)地点、F/T参加作品。舞台空間の中央に大きな台が設えられ、台の後部にアルトーの肖像がおかれている。周知の三浦・地点特有のセノグラフイーの元で、アルトーへの言及の言葉が、句読点変異の朗唱、擬音的音声などが屈曲変異する身体によって演じられる。三浦ワールドのスペクタクルが、俳優個々の一種の前衛芸で展開されるてゆく。今回面白いのは、三浦ワールドがアルトーを使って三浦・地点優位に完結せず、アルトーのテキストの朗唱自体からテキストの深度の力が三浦ワールドを食い破って、アルトーの言葉、思想が現前したことだ。三浦はアルトーとの交流を見事に果たした。それは、アルトーを知らない、なにか高踏的な演劇論だと思っていた客にアルトーの魅力を伝えていた。「残酷演劇」とは身体的な危害のようなものではなく、明晰な強度そのものの謂いであることを、この舞台そのものが示したのだ。
▼メモ。9時半からあうるすぽっとの会議室で、AICT/IACT国際シンポジウム・オン・アジア「国際共同制作と批評の役割」の「日本・韓国国際共同制作」のシンポジウム。司会:西堂行人、パネリスト:鄭義信、金潤哲、金享起。金潤哲の講演「韓国の現代演劇」と鄭義信の「焼肉ドラゴン」をめぐっての討論が行われた。なかなか刺激的な面白いシンポジウムだった。韓国で上演されいる日本の劇作家の筆頭は平田オリザで、次が坂手洋二、鄭義信だそうだ。この順位は日本からみるとちょっと不思議だ。

by engekibukuro | 2010-11-22 11:24 | Comments(0)  

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