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3月24日(木)S「カスケード -やがて時がくればー」   

作・演出:岩松了、岩松了プロヂュース、下北沢駅前劇場。
 地震後の劇場で、満席だった芝居はここがはじめてだ。それも老若男女の客だ。いくら評判がたっても岩松の芝居は決してわかりやくはないのに・・。しかし満席は頷ける傑作だった。岩松の芝居のエッセンスが結晶されているような芝居だった。「アイスクリームマン」の初演をシアタートップスで観たときの驚きを思い出した。あれは山の中の自動車教習所の宿舎での話だった。この芝居はチェーホフの「かもめ」を上演する集団の話、両方とも若者中心の芝居だ。さて、どうして傑作なのか・・、この作家の芝居の劇評を書くのは至難の業なのだ・・。いままで岩松芝居の的確な劇評を読んだためしがない。頭に浮かぶのは唐十郎の岩松は「気が狂った久保田万太郎だ」とか、蜷川幸雄の「岩松さんは半分狂っている」とかいう言葉なのだ。この芝居は舞台は雑然とした稽古場で、チェーホフも「かもめ」もろくにしらない演出家や役者が「かもめ」を上演するゴタゴタを描いただけの芝居だといってもいいが、ここに出てくる若者の半端な劇場関係者のクレージーな言動、振る舞いの輝かしさはどうだろう。殆どが無名の若い男優、女優陣が岩松の世界に憑依して、それぞれが凄まじく個性的なのだ。岩松は役者でもあるので、事務所系の裏事情も熟知しているから、そういう面白い話も続出する。マネージャーつきの結構売れているタレントが、どいうわけか「かもめ」に興味をもって参加したが、役が下男のヤーコフで、このヤーコフは台詞が”へえ、さようで”でそれを2回しゃべるだけ、それでも出るんだからわからない。芝居の中心はトレープレフとニーナのキャステイング争いの話だが、「かもめ」そのものの場面も演じられる。トレープレフを最初にふられた役者の自殺とかの縦糸もあり、時間が遡行したり複雑な構成だが、全体に聖なるバカバカしさのような雰囲気が充満していて、チェーホフが「かもめ」を喜劇だといったことが、岩松の手で実現したと思うくらいの作品だった。この芝居が傑作だからこそ、震災後の厳しい状況で演劇が悲鳴をあげているような実感をもった。当分この悲鳴に同伴せねばなるまい。終演後、岩松さんに「アイスクリームマンに似たいい芝居でした」といったら「そうねアイスクリームマンぽいね」と・・・。
▼メモ。図書館で今月の雑誌を読む。「新潮」の宮沢章夫の230枚の小説「ボブ・デイラン・グレーテスト・ヒット第三集」も岡田利規「ゾウガメのソニックライフ」もそれへの佐々木敦の批評も、「文学界」の柄谷行人vs山口二郎の対談も、3・11以前の言葉は効力を逸している感じが否めない。

by engekibukuro | 2011-03-25 10:05 | Comments(0)  

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