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5月7日(土)M「どんとゆけ」(作・演出:畑澤聖悟)

ザ・スズナリ、渡辺源四郎商店。2008年にアゴラ劇場で初演されたものの再演。今回はソレに続く「あしたはどっちだ」と二本立ての公演。この2本だては、大評判なのだろう超満員の客だ。「死刑執行員の参加する死刑執行に関する法律」という架空の制度をもとに出来上がった芝居だ。略装「死刑員制度」、これは当時執行寸前だった「裁判員制度」のパロデイだと畑澤はチラシにか書いている。被害者家族が直接死刑を執行する制度で、被害者家族が執行を断念すると死刑囚は無期懲役になるルールだ。国家の執行では飽き足らず自ら復讐するという制度は、一見荒唐無稽で信じがたい制度だが、畑澤の手にかかると、にわかに現実感をともなった舞台ができあがるのが不思議だ。舞台は死刑囚マニアで今回執行される死刑囚が3度目の獄中結婚をした、死刑囚に性的興奮を覚える変態女の家。ここの2階で絞首刑が執行される。窃盗目的で家に侵入して主人と幼い子ども二人を殺した死刑囚が、青森刑務所の保安課長にヒモに繋がれて入ってくる。そこへ、被害者の父と妻がくる。家長が読み上げる制度に関するパンフレットに則って進行するのだが、それにかかわる会話の自然さ、話題の卑近さ、たとえば制度の決まりの死刑囚が最後にチョイスする食事のオムライスに関する獄中妻、被害者妻、課長とのウンチク合戦など、死刑という大事業と人間の卑近な生活とのコントラストと、全員のしゃべりが津軽弁だということ、つまり実生活をそのまま持ち込んだような演技が、ごくふつうにこの制度を客が受け入れてしまう効果で、この技の周到な巧さは舌をまくほどだ。ちなみにこの課長には7人の女ばかりの子供がいる。執行寸前に被害者の妻の再婚予定の相手が、とびこんできて、こんなことは人殺しだと再婚を拒否する。しかし、執行を断念せず彼女は2階に阿賀ってあっがてゆく・・・。どーんと落下する執行終了の音で幕・・。国家の殺人の理不尽、被害者家族の犯人への憎悪、復讐願望、死刑囚の後悔と諦念、畑澤が書いているいるように、死刑制度は深い森で、踏み込めば踏み込むほど途方にくれる。この芝居も「あしたはどっちだ」も客のだれかが、それに直面したとき思い出す芝居だろう。畑澤は、昨年の「ヤナギダアキラ最期の日」では不老長寿、「イノセント・ピープル」ではアメリカの原爆製造と、非情に高いハードルを自分に課して、それを非情に親しみやすいリアルな芝居にできる才気あふれる異能の劇作家だ。だから、その才気とその噴出を抑制するバランスに成否がかかっているともいえる。今年10月には、劇団民藝で奈良岡朋子が主演する芝居を書き下ろす。非情に楽しみだ。
▼メモ。エリザベス・ストラウト「オリーブ・キタリッジの生活」(早川書房)読了。アメリカのニュー・イングランドのメイン州の田舎町のもとハイスクールの女の数学教師の話、夫とシニア別れ、離れて住む一人息子ともあまりうまくいっていない彼女の通年から老後までの生活を描いたもの。たんたんと描かれているが、その流れの下にはあkぼそくもうなずける真実がつまっている。親の子供への、孫へのイメーシ、願望はことごとく裏切られる・・。オリーブの友達の孫は「ぼくはおばあちゃんの孫だけど、だからといっておばあちゃんを好きにならなきゃいけないわけじゃない・・」などといって悲しませる。みにつまされて、慰めあっれた小説だった。

by engekibukuro | 2011-05-08 11:28 | Comments(0)  

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