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6月7日(木)M「さらば、豚」(作:東憲司、演出:流山児祥)

流山児★事務所、ザ・スズナリ。
 舞台はかっての炭鉱の町の廃坑。炭鉱が栄えていたときは、そのからみでしのいでいたが、いまやいあがみあっていたヤクザの梅組と桜組もいまは下っ端が働く養豚所の稼ぎでかろうじてしのいでいる。その二つの組の豚がある日廃坑目指して忽然と逃げ出し、両方のヤクザが廃坑のなかでどつきあう・・。作者の東は炭鉱があった北九州州の出身、演出の流山児は熊本出身で、父親が総資本と総労働が命がけで対決した三井三池の炭鉱争議を指揮した炭労の副委員長で総評副議長だった・・、その流山児はこういうアウトローの世界の芝居はいわばオハコで、カナダのアウトローの世界を活写して演劇賞を獲った・・。磐石の背景で廃坑の迷路を走り回る豚の群れの咆哮がどよめき、ヤクザのピストルが火をふき、落盤を予告する炭鉱節が不気味に聞こえてくる・・。この舞台の肝は、この炭鉱節、この民謡は普通、明るい夏の盆踊りの民謡として知られているが、この舞台での炭鉱節は流山児が敬愛する筑豊の作家上野英信が言った、この炭鉱節は、九州の炭鉱に強制連行され朝鮮の人々、被差別部落の人々、犯罪者、ヤクザら現在でも差別にあえいでいる人々の遺産であり、日本民族の「黒人霊歌」であるとして、どこかから流山児自身が歌う、怨念がこもった暗い不気味な調子の歌として聞こえてくる・・、ヤクザたちは出口を落盤でふさがれ、閉じ込められる・・、飢えがつのり、銃撃で死んだ仲間の死体へ・・・。流山児の意を体した久しぶりに事務所の芝居に出た若杉宏ニが梅組のリーダーで芝居の大筋のナレーターも勤める、桜組は元唐組の丸山厚人が独特の存在感で際立ち、異色は劇作家佃典彦が梅組のヤクザに扮して面白く、桜組は塩野谷正幸がバックを固める・・。これも久しぶりに流山児の舞台美術を担当した島次郎はかって流山児の舞台で役者をやったこともあるそうだ。追い詰められたヤクザたち、弔い歌と化した炭坑節、最後に全員で歌ったこれも正調の労働歌だった「頑張ろう」が全く茶化して歌われて、戦後の歴史が異化される。だが、決してこれが主題化されなくて、流山児は東の戯曲の隅々まで最大限に舞台化し、ただただおっかなくて面白い芝居の中で、既成概念をこわし、歴史の味わいを複雑に変化させ、賞味させるのだ・・。
▲東京医科歯科大で最後の内視鏡検査、これで全治療が終わった・・。

by engekibukuro | 2012-06-08 09:53 | Comments(0)  

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