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7月6日(金)S「ガリレイの生涯」演劇集団円

作:ベルトルド・ブレヒト、訳:千田是也、演出:森新太郎、シアタートラム。
 ブレヒトを演じたのは吉見一豊、この人、昔からじつにうまいし、特に岩松了の芝居で、この人の個性が生きていて、好きな好きな役者だった。その吉見が、ガリレイを立派に演じて、これは彼の代表作になる・・・。ゲリレイは前に、MODEの松本修演出で、柄本明が演じていて、そのガリレイもよかったが、まったく別のガリレイの人物像を創りあげたのだ・・。”英雄がいない国は不幸だ”ということばに”英雄を必要とする国は、もっと不幸だ”とガリレイは応じた・・。この応酬がこの芝居の肝だともいえるが、数学教師ガリレイは、報酬の多い学校などを渡り歩き、美味いものやワインに目がなく、娘の持参金の心配もするが、片方では下宿先の息子に物理学の初歩を教え、国や職人たちのために色々な機械を発明してあげ、なによりラテン語など読めない、職人たちの智恵の深さを認めている・・、そういうごく普通の生活者でありながら、天体物理の真理の探求心は、いかんともしがたく、やっかいな法王庁の司祭や、聖書の記述をかいくぐって学問や、その伝達にいそしまざるをえない・・、だが、神様を愛する民衆を、ガリレイはひといちばい解かってもいるのだ、そういう決して、”それでも地球は動く!と弾圧に抗して叫ぶような人物像ではないが、16世紀の複雑多岐な世界で生きた、真理につき動かされた人として吉見のガリレイはしっかり客に手渡された。奥行きの深い、無味乾燥なコンクリートの空間(美術:伊藤雅子)が時代のマチエールを感じさせ、森の演出はけっして大上段に構えず、ブレヒトのテキストの内実にそって、その複雑な劇のダイナミックスを要所をきちんと押さえて、展開して、最後の法王庁に幽閉されているときのガリレイのコトバの節々に、民衆にとって科学とはなんなのか、科学者の倫理とはなどのコトバが、いまの核物理学による惨状を思わせるとびきりのアクチュアリテイを感じさせたのだ・・。そういう成果も、演技水準が高度な円の演技陣の沢山の役をそれぞれ個性豊かに演じる背景があってこそで、高林由希子の男役などなんだかすごく面白かったし、そういう意味では森は恵まれた環境にいるね・・。

by engekibukuro | 2012-07-07 09:47 | Comments(0)  

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