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10月5日(金)★:M劇団民藝、★★S:MODE

★「冬の花」(作:小山祐士、演出:児玉庸策、紀伊国屋サザンシアター)、
 初演は1970年。原爆投下の6日に取材のため広島にきて、被爆し、原爆症で苦しむ新聞記者が妻と、療養のため瀬戸内海の小島に住む。この漁村の島は漁の不振で、暮らしがとても貧しい。みかねてこの元記者は、冬でも気候のよいこの島に花を植えて売り出すことを思いつく。自ら勉強し、島民を説得して村人はそれぞれ花を植えだす・・。それが成功して夫妻は島民に感謝される・・。夫が鈴木智、妻が樫山文枝。小山はもともと瀬戸内の出身で、そこに住む人々の哀歓をリリカルに描いた数々の名作を書いた劇作家。新劇といっても岸田國士門下の「劇作」派で、政治性とは無縁だったが、原爆投下直後の広島を目撃して、広島、原爆、戦争の惨禍を劇の中で訴える作風に移っていった。この芝居でも重い原爆症を抱えた主人公や、原爆孤児の若い水産研究者が出てくる。声高にそれらを告発する芝居ではないが、原発事故の起こった現在、広島の記憶を改めて心にしっかり据える気持ちにさせた芝居だった。
・民藝の名優大滝秀治さんが亡くなった。最後に出演した作品である高倉健の「あなたへ」を見ておいたよかった。合掌!
★★「あなたに会ったことがある・2」(原作:カフカの短編小説より、構成・演出:松本修、上野ストアハウス)。劇伴音楽の名手松本の、選びぬかれた極上の音楽にのって、カフカの短編群が、コント風に繰り広げられる・・。なかでも石井ひとみが演芸場での売れっ子猿に扮する「あるあ学会報告」が群を抜いて面白い・・。これは今年キャサリン・ハンターが「カフカの猿」で演じた作品だが、キャサリンの屈折した面白さとは違った、石井ひとみの可愛いい猿の健気な奮闘振りも面白く見応えがあった。来年、松本は「城」、「失踪者」、「審判」を再演する。この三つの長編大作と、「変身」をはじめとする短編群の劇化。これはカフカの作品のほとんどの劇化という前人未到の偉業といってもいいくらいのたいしたものだと、この舞台を観ながら改めて思ったことだった。

by engekibukuro | 2012-10-06 10:55 | Comments(0)  

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