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10月10日(水)S「傘雨」(作・演出:下西啓正)

乞局、SPACE雑遊。
・これはどういう芝居なんだろう・・。作者のコトバは、”昨年の三月を経て、それまで不動だと信じてきた「家」も不確かなものになり、それでもそこを離れることなく、居続けるしかない人たちは、なにを標とすれば良いのか”夫が失踪した夫婦だとか、被災地へきたボランテイアとか、いろんな人間たちが入り乱れて、エピソードが錯綜し、下西独特の、人物たちのエキセントリックな意表をつく応酬の連鎖、固執と放心の凹凸、それらのテキストの下地が、役者の多層な表現欲を刺激して、演技のねじれた強度が舞台を覆ってゆく・・。以前の乞局の芝居にあったの露悪性は影を潜めていて、災害の惨禍に対応不能に陥った不安定な人間たちの振る舞いを、下西の特異な人間観、世界観のもとに観てゆくだけだ・・。「下西啓正率いる乞局の描く世界は、不思議な暗闇に包まれている。その暗闇の細部には鬼が住んでいて、しかしその鬼を見つけるためには、観客は静かに暗闇を凝視しなければならない。何も見えない真空の時間に耐えたものだけが、下西啓正の世界を垣間見ることができる」(平田オリザ)・・、はたしてわたしは垣間見ることができたのだろうか・・・。
▲石井光太著「遺体 震災、津波の果てに」(新潮社)を読んだ。被災地岩手県の釜石の遺体安置所の関係者に取材して、遺体そのもから大震災の惨禍を改めて見つめさせる本だ。関係者の市役所職員、消防団員、医師、歯科医、葬儀社の社員、僧侶、元葬儀社食の民生委員、市長、これらの人々のポートレイトをもとに、それぞれの固有の働きを、著者はその人になりきって全身的に、個々の遺体への対応を描いてゆく手法によって、震災の真の現実を再現した本だ。安置所の遺体にとりすがる人々の姿に粛然とする。

by engekibukuro | 2012-10-11 11:10 | Comments(0)  

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