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11月8日(木)M「4 four」(作:川村毅、演出:白井晃)

世田谷PTプロデュース、シアタートラム。
 トラムの通常の舞台形状を解体して全面平の空間にバラバラに箱を置き、客はその箱の上に座布団を敷いて座って観る・・、役者は空間の中心から客の箱の間をへめぐってのモノローグを語る。
 この公演は、世田谷PTが2011年から始めた新事業「劇作家の作業場」の試みの完成形だ。これは「劇作家が自由な発想を自在に試す場」として設定される。劇場に依頼された劇作家が、自分の書きたいテーマで執筆した作品を、まずワークショップとリーデイングで試し、その結果を見て改稿を重ね、本格的上演までもってゆくという、いくつもの手順を踏んだ事業なのだ。この事業の一番手を担ったのが今回の川村毅のこの作品・・。リーデイングまでは登場人物は4人だったが、最終形では一人増えて5人。F:池田鉄洋(裁判員に選ばれた大学職員)、O:田山涼成(法務大臣)、U:須賀貴匡(拘置所の刑務官)、R:高橋一生(未決囚)、男:野間口徹。加わった一人は舞台を影で支える人物だ・・。無差別殺人を犯した未決囚の死刑執行に関する、死刑判決に一人反対した裁判員、執行にサインするのをためらう法務大臣、絞首刑の執行に携わる刑務官、そしてその未決囚、この4人のモノローグが主軸、法務大臣の父はアル中で自殺した大臣だというからモデルありか・。事柄に関する4人のモノローグは、罪と罰、悔恨と恐怖、孤独と虚無、過去と未来、希望と夢などに想念が浮し、人間が人間を裁くことが可能なのか、そして死刑制度そのものへの問いかけに収斂してゆく・・。川村のテクストは、改稿を重ねた成果だろう、深刻で深い孤独感を感じさせるモノローグは4月の桜、靴底についた花びら、語りかける公園の樹木、緑に映える池の水面などポエチックなイメージに彩られて、非常に美しい語感を与えられる・・。そのテクストを白井のユニークな空間設定、役者の導線の自在さなどで、刺激的で先鋭的な舞台に創りあげた演出は瞠目すべきものだった。が、このスタイリッシュな舞台の洗練、役者の自意識の突出とかからか、2011年の川村自身の演出によるリーデイングと異なる感触があった。このリーデイングは吉田鋼太郎、手塚とおる、中村崇、扇田拓也の4人だったが、人物たちの生活感に裏打ちされていた記憶がある・・出発点がほぼ同時期に川村は「第三エロチカ」、白井は「遊◎機械/全自動シアター」を立ち上げ主宰していた。その時の両者の舞台は水と油ほど違っていたが、歳を経ての両者が創った舞台は、成熟した二人の美学が入り混じった成果というべきだろう・・。いずれにしろ世田谷PTのこの斬新な試みは大いに成功した事業であり、続行される舞台が楽しみだ・・・。

by engekibukuro | 2012-11-09 09:55 | Comments(0)  

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