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9月5日(木)★M「かもめ」★★S「ヴェニスの商人」

★作:アントン・チェーホフ、上演台本・演出:ケラリーノ・サンドロヴイッチ、シス・カンパニー、シアターコクーン。
 なかなかよく出来た舞台だった。チェーホフの四大戯曲のうち「ワーニャ伯父さん」「三人姉妹」「桜の園」にはそれぞれこれはという自分の決定版あがるが、最初に書かれた「かもめ」だけはこれはという舞台がないままだったが、これはそれに近ずいたかな・・。これはトレープレフの生田斗真とニーナの蒼井優がとてもよかったから・・、今まで芝居の中心になるこの二人を演じる印象に残る俳優に接していなかったから・・、才能はあるが、性格が極度に不安定なトレープレフ、モスクワからきた有名作家に惹かれて女優になって捨てられて、最後にはドサまわりの女優になってしまったニーナ・・。この二人がちゃんと芝居の中での位置を確保できる援護ができていた、開幕の庭でのトレープレフが書いた芝居の上演の場で二人の演技が物語りの予兆を十分に感じさせたのだ。他の人物も、山崎一、梅沢昌代、西尾まり、中山祐一郎、浅野和之、小野武彦、野村萬歳、大竹しのぶ、みなところを得た配役で、キャステイングの妙というべきで、そして梅沢以外はほとんどチェーホフ劇は初めてのメンバー・・。梅沢は文学座出身で、そこから同じ文学座の松本修とMODEを立ち上げ、チェーホフ好きの松本の演出で何本もチェーホフ劇を演じている・・。いままで新劇伝来の暗黙裡のチェーホフ劇の演じ方みたいなものがあったが、このメンバーはほとんど無手勝流のように演じて、それが人物を生彩陸離たるものにしていて、特に大竹のトレープレフの母の大女優という触れ込みのアルカージナなど。いままで観たことのないアルカージナで、はすっ葉でケチで勝手気ままで、それでもそうかこんな女なのかと納得させもして、それでもなにか愛しい感じも残すのが大竹の力・・。とにかく皆それぞれの傷を抱えていても、話はそう珍しくもない。ありきたりの話ともいいえて、そのありきたりの永遠性の深さがチェーホフの醍醐味か・・、チェーホフは新劇の主要レパートリーで、その後、小劇場などでさまざま試みられてきたが、この「かもめ」はこの時代に提出された醇乎たる舞台芸術作品といえる・・。生田ファンなのか、若い女性の客で一杯だった。チェーホフは生き延びる、ケラはこれから年齢50年代前半を、このカンパニーで「ワーニャ伯父さん」「三人院姉妹」「桜の園」上演に費やすそうだ・・。この成功が期待をふくらませる・・。
★★演出:蜷川幸雄、作:W・シェイクスピア、翻訳:松岡和子、彩の国さいたま芸術劇場。市川猿之助のシャイロック!
終演、カーテンコールの猿之助に向ってのスタンデイングオベレーション、だが、私は座ったままだった、衝撃が強くて、拍手すらできなかった、こんなことは初めてだ。最後の裁判に敗北して退廷のあと、客席通路におりてきての”引っ込みの場”、ほとんど目の前の猿之助はシャイロックそのものだった、役になりきるというのは、新劇発の演技の概念だとしかしらなかったから、歌舞伎の型と役の感情が合体した力の凄さに撃たれたのだろう・・。歌舞伎の型の力をしらない無知からきたものだと冷笑されそうだが、こんな体験ははじめて・・。とにかくこの舞台は猿之助の歌舞伎の型とリアルな演技の総合された演技の強度に驚愕にちかい感じをもって観た舞台だった。この「ヴェニスの商人」は子供の頃から観て来たが、なにか納得のゆかない芝居だった。肉1ポンドを借金のカタにするとは法治国家ヴェニスの法律は殺人罪や傷害致死罪を許容しているんじゃないかと思って、ヴェニスの公証人はそういうカタを認めて証文を作成するのかとか・・・。蜷川も翻訳の松岡和子も、この芝居をあまり好きでなかったというのも我が意をえたりで・・、とにかく蜷川のこの芝居についての”これは、まるで正統派の異端殺しじゃないかと思いました。シィロックは一人で100人相手に闘っているように思えました。体制側の論理の立て方の凄さにあっるいは狡猾さに殺意さえ覚えたのが正直な感想です”といい、その点で異端児として猿之助と同ポジションで二人で”共闘”する、した・・。シャイロックは悪人として書かれていると猿之助はいっているし、異端といって含意はさまざまだ、ただ、ユダヤ人差別とか、金融資本主義とか、芝居そっちのけで議論する向きにはもってこいの芝居で、収拾がつかない要素があり、かたや金銀ナマリの箱の婿選びのようなメルヘンチックなシーンもあって、異様な様相を帯びかねない司馬でも芝居でもあり、それらを蜷川と猿之助が共同開発したシャイロックの歌舞伎の型の強度が貫いて、一種名状しがたい舞台が出来上がったというべきか、しかし、蜷川演出始めてのアントーニオの高橋克実も、私の好きなグラシアーノを演じた間宮啓行も非費歌舞伎俳優たちも実によく演じているのだが、猿之助のシャイロックと比べて弱度(?)ではあり、その対比の異様さもこの舞台の見所になっている・・、体制側はシャイロックの必死の強がりより、弱度とみせかけて支配力を強化している狡猾さは、この舞台で同時にミエミエにわかる、なんだか分からなくなったが、まとめより、猿之助の演技と、芝居のデイテールの記憶を大事にしよう・・。

by engekibukuro | 2013-09-06 16:35 | Comments(0)  

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