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11月13日(水)M「もう風も吹かない」青年団  

作・演出:平田オリザ、吉祥寺シアター

 この作品は、平田が渾身の力で創設した桜美林大学の総合文化学科演劇コースの第一期生の卒業公演のために書き下ろされた作品だ。私はこれを2004年に桜美林のプルヌスホールで観た。青年海外協力隊の話で、舞台はその第四訓練所の近未来のある日のロビー。この年に日本政府の財政は破たん寸前のなり、すべての海外援助活動の停止が決定された。海外協力隊も最後の活動として任地にゆく・・。それそれの任地のはなしや、隊員の噂話も破たん寸前の日本の気配がたちこめていた・・・。平田はそんころの経済と物質を唯一至上の価値とする日本が滅びるという妄想に取りつかれていたという・・・。その思いが直截に伝わる劇で、平田の作品のなかでもベストの部類の作品だと感銘を受けた思い出がある。「シアターアーツ」の劇評で、「桜美林の学生たちの演技が近未来の隊員たちの運命を自然に現在の自分たちの行く末に重ねていて、プロとかアマとかの別の次元で生き、平田の渾身テクストに命を与えていた」と私は書いた。2013年の今観ると、ますます平田のペシミズムはリアリテイを帯びている・・。平田は、内閣参与を体験したり、「芸術立国」を訴える、単なるペシミストではないが、そのアンビバレンツの顕現をこの作品を今観ると感ずる。ただ、青年団の俳優陣の演技メソッドが過熟気味で、一回性の鮮度の維持のむず難しさを感じた・・。
▲古市憲寿「誰も戦争を教えてくらなかった」(講談社)を読む。
古市は28歳の社会学者。世界のおおよその戦争博物館を探訪して、第二次世界大戦を知り、再体験すべく見学した体験記。われわれの世代だと、戦争を藝術ならともっかく、古市の戦争博物館の採点基準にはエンタメ性がある・・、もう戦争の記憶がうすれ、伝承もろくにさせていない時代に、戦争を疑似体験させ、認識させるためには、人に見せるさまざまな工夫を凝らすのは当然なのだろう。古市は世界のアウッシュビッツや南京の博物館をみてまわり、最後に思い出すのは、むろん大戦の悲惨さ、その「大きな記憶」をきちんと認知するのだが、自然に思い出すのは、アウシュヴィッツの青空や、ベルリンの反戦博物館の館長の横顔だそうで、そのうえ日本だけでなく、世界中の古市と同世代の若者は、戦争の「大きな記憶」はおいておいえて、やはり今の時代をいきることに戦争の影はほとんど消えていると・・・。戦争の大きな記憶にいまだ呪縛されてい世代には、現在の世界の実情とひとつの真実を開示された本だった。古市はもう大きな戦争、第三次大戦のような大戦争は起こらないだろうと、さまざまな根拠をしめして説得的だ。情報の量と質、文体の柔らかさ、20代の青年の感覚と思考はとても信頼でき説得性をもちまあ一抹の希望を託せるな・・、演劇では藤田貴大のように・・・。、

by engekibukuro | 2013-11-14 07:39 | Comments(0)  

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