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8月21日(金)S「人民の敵」オフイスコットーネ

作:ヘンリック・イプセン、翻訳:原千代海、構成・上演台本:フジノサツコ、、演出:森新太郎、プロデューサー;綿貫凜、吉祥寺シアター
 ノルウエイの小さな町の温泉地の医師ストックマンが、その温泉が廃液で汚染されていることを発見し、その発見を公表し、修復工事を提案しようとするが、市長の兄ペーテルは、その修復に莫大な予算を要するので公表を阻止、事実を隠蔽することに腐心する・・。このことを巡って、新聞、各種利益団体の人間が右往左往し公害と経済利益の差し引きでの世論の分裂の日本でもおなじみの光景が繰り広げられる。いまの日本での原発問題などに即応する光景だ。ただ告発するストックマンは正義を振りかざして自分の行為に酔っている気味がある男で同調しない世論にいらだち、とうとう「人民の敵」呼ばわりされることになる。これはイプセンが「人形の家」や「幽霊」を発表したあたとの世の中の無理解にいらだつイプセンの心情の反映だとするのはうなずける・・。だが、演出の森の狙いの主意はそういう社会問題の究明ではなくて、登場人物を演じる個性豊かな俳優の演技の展示だ。舞台は劇場の真ん中に設えた四角なプレートで、それを客は四方から観る。プロレスのリングに類似する。ここで弱肉強食のダイナミックな果たし合いのような舞台が展開する。とくにストックマンを演じた瀬川亮がこの難役を演じ切って目を瞠るような演技だ。それを支えるペーテルを演じた山本亭の屹立した存在感は圧倒的、さらに新聞記者ホブスタの有薗芳記は、有薗はこんな役もできるんだと感嘆するような演技、さらに若松武史、青山勝、塩野谷正幸、そして紅一点のストックマン夫人を演じた松永玲子が、この芝居の影の要になる女性を見事に演じた。森は自分の演出の三本の柱として、戯曲、配役、舞台美術を挙げているがその3本は立派に成就した舞台だった。森と綿貫の目指したオフイスコットーネの快作だ。

by engekibukuro | 2015-08-22 10:58 | Comments(0)  

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