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9月17日(木)M「あの子だあれ、だれでしょね」

作:別役実、演出:藤原新兵、文学座アトリエ9月の会
 久しぶりの別役の文学座への書き下ろしで、名コンビ藤原の演出だ・・。開幕とたんに別役ワールド、10月なのに雛壇を飾っている。飾っているのは、不気味な雰囲気を静かにかみしだしている寺田路恵扮する初老の女だ・・・。文学座への別役の新作戯曲の提供はこれまで26本作品にのぼり(今回が27本目)、そのうち23作品を藤原新兵が演出した(うち19本がアトリエの会)、が、別役の不条理劇は文学座で藤原演出、文学座の役者(小林勝也、角野卓造、田村勝彦など)で新天地を開いた。別役は「文学座にはご飯を食べる仕草にも独特のきめこまい演技術があって、そこに僕のセリフがうまくはいりこんでいくと、不条理劇のうちにも具体的な生活感が浮かびあがる」と言っている。当初、不条理劇というのは舶来のアヴァンギャルドだと思っていたから、文学座の舶来感が払拭された別役劇にちょととまどったが、やがて病みつきになった。さて、今回の新作は、あの「尼崎事件」をモデルにした芝居だ。劇作家であると同時に犯罪研究家でもある別役の得意の分野だ。別役は、実際の事件はもっとスケールが大きいのだが、この劇では縮小してあるという。しかし、この事件のエッセンンスである名状しがたい不気味さ、恐怖は肌に伝わってくる。最後は留置所で自殺する事件の首謀者の寺田扮する毒婦が、ほとんど知らない家になにをしでかすかわからいような不気味な若者と一緒にと入り込んで、その家の娘と結婚させ、病床の老婆を偽装して殺し、そのた枚挙にいとまもない凶悪な出来事を犯して、被害者が警察に連絡すると家庭内のいざこざは扱わないと放置される・・.。そういう暗い話ではあるが、藤原は雛壇のある部屋と、おなじみベンチとバス停のシーンを用意し、近所のオバサン3人組や猫殺しの別件も挿入、別役の笑劇風味もとりいれて、”あの子はだああれ・・・”とフォークロアのなつかしさも含
有させる。それでも警察などたよりにするのを絶望させての狼藉の横行に支配させられる市井の生活者の救いのない恐怖・・、この不条理そのもののリアルは充分に活写された。これは寺田の不気味な存在感が圧倒的な効果を挙げている。折からの大雨でアトリエの屋根に雨の音が響き、恐ろしさを倍増させた。.

by engekibukuro | 2015-09-18 09:51 | Comments(0)  

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