人気ブログランキング | 話題のタグを見る

11月4日(水)「書記バートルビー/漂流船」


 ハーマン・メルヴィル作、牧野有通訳 光文社古典新訳文庫

 ウオール街の法律事務所で雇った寡黙な男バートルビーは、決まった仕事以外の用を言いつけると「できればそうしない方がいいと思います」と言い、一切を拒否する。彼の拒絶はさらに酷くなっていき・・・。この小説は、今年燐光群の坂手洋二が劇化した。この小説を、坂手は原典を明示しながら、、日本の原発から22キロ離れた病院の事務長、普通の家の娘という日本人に擬して、「できればそうしない方がいいと思います」という言葉をいりいろなニュアンスで使わせて劇化した。この転用そのもは隔靴掻痒で判然としなかったが、この「できればそうしない方がいいと思います」と決まった仕事以外の用事を婉曲に、しかし断固として拒否する男は興味深く、この小説を読んでみようと思わせた。さらに11月号の「テアトロ」誌で高橋宏幸が、この芝居をとりあげて、この小説が、現代思想の分野でのテーマとして取り上げられていることを紹介している。なるほど興味深い、面白い小説だった。現代思想云々はまったく不案内だが、この”できればそうしないほうが”という絶対的な相対主義を貫き、事務所に居座り続け、さいごには刑務所に追われて、ろくろくものを食べずに自死のように死んでゆく男は強烈な印象を残し、この男の前職が、郵便局の配達不能郵便の仕分け係りだったというのも無性に暗示的だ・・。もう一つの「漂流船」も手が込んでいてとても面白かった。読もう読もうと思っていたメルヴィルの小説を、坂手の芝居を観て読むことが出来たことを感謝したい気持ちだ。

by engekibukuro | 2015-11-05 09:11 | Comments(0)  

<< 11月5日(木)M「Ne AN... 11月3日(火)M「小泉八雲の... >>