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7月3日(日)青山七恵・山下澄人

青山七恵「ミルキウエイ」(群像7月号)と山下澄人「しんせかい」を読んだ。

  青山の小説は、主人公瑛子が年の離れた異母妹由香と父を病院に見舞うときはじめて会って、天文ファンの由香を外秩父の山上に実在する堂平台天文台に車で送くることになって、道中、初めて会った妹と違和感をもちながらも、やはり血のつながりを感じる、その複雑な気分がヴィヴィッドに伝わってくる小説だった。実はその天文台はその日は閉鎖していて、由香はそれを知っていて、目的は昔、その天文台付近で拾って育てた愛犬が死に、その骨をそこに埋めることだった。片山杜秀は朝日新聞の文芸時評でこの小説を宮沢賢治「銀河鉄道の夜」の見事な換骨奪胎だと書いている。由香は瑛子に山上で北十字を凝視しながら語る「千八百光年、わかりますか?光の速度で千八百年だから、あの十字架のてっぺんに光る星は、千八百年前の光なんです」。「でも、いま、ここ、わたしに見えているこの顔は、いまの瑛子さんの顔です」エキセントリックではあるが、宇宙や犬に対する由香の気持ちの純度の深さに感動した小説だった。
  山下の小説は、山下が倉本聰の北海道の富良野塾の二期生として過ごした体験記。働きながら、脚本や演劇の勉強をする毎日だったが、末尾に「どちらでも良い、すべてはつくり話だ。遠くて薄いそのときのほんとうが、僕によって作り話に置きかえられた。置きかえてしまった。それか一年「谷」で暮らした。一年後「谷」を出た」と不思議に冷めた感触なのが印象的な小説だった。

by engekibukuro | 2016-07-04 10:28 | Comments(0)  

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