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10月20日(木)M「静かな海へ」MINAMATA

作・演出:ふたくち つよし、トム・プロジェクト プロデュース、紀伊国屋ホール
 水俣病公式確認60年演劇公演と銘打たれた、この物語は、水俣病を公式に発見した医師細川一を主人公にした劇である。
 細川は、水俣市に君臨する会社チッソの工場の医師である。細川は水俣の海を汚染し、猫が踊り狂い死ぬ現象を発生させ、人間にも奇病・水俣病を発生させた原因が、チッソが海に垂れ流す有機水銀を飲んだ魚を食べたことが原因だと、自ら猫にその汚染水を飲ませて猫に同じ現象が起きたことで発見した。しかし、会社はそのことの公表を禁ずる・・。この芝居は、戦後日本最大の公害である水俣病の発生と現在までの歴史をコンパクトにまとめた有益な劇であり、永島敏行が演じる、細川医師の苦悩に満ちた人生を真摯に描き抜いた物語である。作者ふたくちは、”昔、私の舞台を観た人に「半径5メートルを書く作家」だと評されたことがある”と語っている。この芝居も、日本をゆるがすような公害事件でり、数々の抗議運動が繰り広げられた事件だったのだが、この芝居の舞台は妻と娘の家族を主要人物にした一見ホームドラマの体裁をとっている。むろん、細川がチッソの幹部と交渉し、抗議するシーンはあるのだが、この半径5メートルのホームドラマの形式が、むしろ公害という社会的事件の核心に接近する有効な手法になり、一人の家族を持った人間の苦悩が、問題の本質を露わにする効果になっているのだ。そして、この芝居によて、戦後日本が経済の成長が至上命題になって、水俣病に典型的に表れた非人間的な現象を平気で見過ごさせる病理を発生させたことを如実に感じさせるのだ。それは現在でも経済成長を至上命題にする、資本主義の病理は当然存続している。この芝居はそういう社会劇ではないが、人間にとって、ほんとうの成長とはなにかということを、一つの家族劇の形式をとおして考えさてくれた舞台だった。

by engekibukuro | 2016-10-21 10:23 | Comments(0)  

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