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1月26日(木)

 高村薫「土の記」の下巻を読む。主人公が住んでいる奈良から大震災の起こった福島まで800離れているが、この村落まで有形無形の影響を及ぼし、村の若い人はボランテイアで東北行く・・。主人公の伊佐夫は日々の農作業、特に天然の茶畑の世話が早朝の仕事で、それから田や畑に回るのだが、蜩(ひぐらし)が鳴き続ける木立、田や畑には、ナマズやザリガニやさまざまな小魚がいて、そういう場所で働く雰囲気は、今の時代にも自然が豊かに生きていて、それらに囲まれながら生活している伊佐夫をなにかうらやましい気もするのだが、妻を事故で亡くして一人暮らしだったのが、近所から犬を一匹もらわらずをえなくなって、今は犬がついてまわる・・。それにしも、交通が不便で、この村落の家は見な車を持っていて、それが伊佐夫は軽自動車だが、この土地の人はではベンツやBMWをざらにもっている・・・。小説は、この小説の暗い部分、亡くなった妻の浮気の記憶などの影も消えないのだが、とうとう伊佐夫も認知症の症状がでてきた・・。老化の歴然たる兆し・・。この下巻の帯の惹句は”生の沸点、老いの絶対零度”とあるが、その領域に入り、これが私にも身に染みるのだが、この小説の素晴らしさは、奈良の山村で生きる人々の、奈良ならではの古い格式のある暮らしの描写と、主人公伊佐夫を描く、句点のなかなか来ない粘着力のある文体で、読者に巧み追体験させる文章だ。これは人間の心のありのままを書きつくすプルーストの文章を思わせるものだ・・。とにかく新年早々の充実した読書体験だった。

by engekibukuro | 2017-01-27 09:58 | Comments(0)  

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