4月16日「ありんこアフター・ダーク」

 ”そして入口のずっと上方に、小さな板切れがぶら下げられ、そして黄色いペンキで無造作に「ありんこ」と、書かれてあった。
 僕は、その火掻棒のような折れ曲がった把手を掴むと、ドアをそっと手前に引いた。すると、だしぬけにリー・モーガンのファンキーなトランペットが、猿轡を外された勢いを駆って、襲い掛かるように表にとびだしてきた。と、同時に、中にいた数人の客がいっせいにこっちに向くのが見えた。薄紫の煙の向こう側にあるうさん臭げな目は異分子の闖入を完全に拒んでいる。浅いとの待ち合わせさえなければ、店内に入るきなどとうていおきないほど、そこにいる客たちの目は排他的で冷ややかだった。”
 以上は荒木一郎の小説「ありんこアフター・ダーク」の一節で、主人公がはじめて渋谷のジャズ喫茶「ありんこ」に入る情景だ。このまえ読んだ「まわり舞台の上で 荒木一郎」を読んで感服して、未読だった荒木の代表作を読んだのだ。果たして名作だった。ジャズ喫茶が全盛の時代、1962年から63年、主人公が19歳から20歳までの時期の時代の雰囲気が的確に描かれ、彷彿とされる。文学座の名女優だった荒木道子の一人息子の一郎、母親が旅公演に行っていることがおおい息子のジャズにのめりこんだ時代の渋谷や新宿での奔放な青春を描いて、どんなでたらめに見えても、どこか徹底的に覚めている主人公が実に魅力的だ。
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by engekibukuro | 2017-04-17 09:51 | Comments(0)  

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