11月10日(金)

「文学界」12月号の前田司郎の200枚の小説「愛が挟み撃ち」は読みごたえたっぷりの傑作だ。一人の女をめぐる二人の男、よくあるような話だが、男同士はながいつきあいの親友で、ひとりはシナリオライターを目指し、もう一人は学生時代の映研の映画に出たりしたが、卒業後は普通のサラリーマンになる。女はかなりの美人で、映研の主演女優をしたりして、最初はシナリオライターの男とつきあっていたが、結局、サラリーマンの男と結婚する。この小説の発端というか肝は、結婚した夫婦が最初はさして思っていなかったが、女が35歳を超えて子供を産む最後の年齢に近づいて、男が母親に孫を見せる気持ちが高まり、子供を産むことにするが、それがうまくいかず、医者に診てもらったたら、男に精子がないことが判明する。悩んだ末に、親友だったが今はあまり付き合っていなかった男に、妻を託して産むことにする。妻もあれこれあったが承諾し、一回するごとに20万円を払い、5回までとして、生まれたら会わせないという約束をする。頼まれた男は金が必要で引きうけるが、4回してもだめで、最後にかっての親友同士が劇的に協力して(詳細は読んでください)子供が誕生する。はなしは、そういうものだが、この小説の魅力は、三人の交流する東京の町の描写とその空気、前田は劇団の五反田団の主宰者だが、名前のとおり五反田生まれの五反田育ち、前田の今までの小説でも、五反田、恵比寿、目黒、品川、御殿山などの山手線沿線の一つのゾーンのローカリテイ、その街並みの描写と、それを小説の細部に絡ませる、それとそのゾーンのカフェや居酒屋も含んでの筆致が素晴らしかった。今回も前田ワールドの魅力たっぷりの小説だった。

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# by engekibukuro | 2017-11-11 09:52 | Comments(0)  

11月9日(木)★M「プライムたちの夜」★★S「桜の園」

★ジョーダン・ソーダン、翻訳:常田景子、演出:宮田慶子、新国立劇場小劇場
”とあるいま居間、85歳のマージョリー(浅丘ルリ子)が30代のハンサムな男性と会話している。だが、二人の思い出話に及ぶと、その内容に少しずつ齟齬が生まれる、途惑うマージョリー。実はその話し相手は、亡き夫の若き日の姿に似せたアンドロイドだった。”その夫ウオルター(笹川和正)のアンドロイドはプライムと呼ばれる。これは薄れゆくマージョリーの記憶をなんとかつなぎとめようとする娘夫婦のテクノロジーだった。そのマージョリーが死ぬと、今度は彼女のプライムが娘テス(香寿たつき)と話をし、そのテスが死ぬとテスのプライムと夫ジョン(相島一之)が話をする。この劇はどんなに精巧に作られている人工知能のアンドロイドでも、生身の人間ととは微妙に異なり、その少しの違和感が、生身の人間の生のはかなさを、もろさをが逆に感じられるということを実感させる、よくできたユニークな舞台だった。マージョリーを演じた浅丘が85歳の老婆を演じて、舞台を静かに輝かせていた・・・。
★★作:アントン・チェーホフ、演出・脚色・美術:串田和美、翻訳・脚色:木内宏昌、シアター・コクーン
この桜の園、ラフネースカヤ夫人はリューバというファーストネームで呼ばれるような、串田が「桜の園」のテキストを解体して、他のチェーホフの短編を入れて、全体をシャッフルした、遊び心満載の、まことにユニークな「桜の園」だった。音楽も踊りも入る賑やかな舞台だが、「桜の園」の本線はきっちり埋め込まれていて、ワーリャとロパーヒンはやっぱり結ばれることなく終わるのだ。「桜の園」もこういう形で上演できるということ、ちょっと驚きだった。

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# by engekibukuro | 2017-11-10 10:01 | Comments(0)  

11月8日(水)呉座勇一著「応仁の乱」(中公新書)

40万部を突破した歴史書だ。著者は”はじめに”において、原因も結果も今一つはっきりしない応仁の乱、だが後世に与えた影響は甚大である。大正10年(1921年)に東洋史家の内藤湖南は講演「応仁の乱に就いて」で次のように述べている。「大体今日の日本を知る為に日本の歴史を研究するには、古代の歴史を研究する必要は殆どありませぬ。応仁の乱以後の歴史を知って居ったらそれで沢山出す。それ以前の事は外国の歴史と同じ位にしか感ぜられませぬが、応仁の乱以後は我々の真の身体骨肉に直接触れた歴史であって、これを本当に知って居れば、それで日本歴史は十分だと言っていいのでありますー」。この本を読むとそれが十分感じられるが、たくさんの大名がさまざまな形で争うのだ、その大名の名前を覚えるだけで大変で、面白いのだがややこしい。これが40万部も売れていることは、そのこと自体が驚きで、日本人が内心今の時代に心の奥で何を感じているのか、興味深い・・。

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# by engekibukuro | 2017-11-09 09:36 | Comments(0)  

11月7日(火)M「『事件』という名の事件」青年劇場小劇場企画

作・演出:ふじたあさや、青年劇場スタジオ結(yui)
 この芝居は戦中に起こった横浜特高警察の言論弾圧で知られた「横浜事件」の全容を劇化した作品だ。作者ふじたあさやの父藤田親昌が雑誌「中央公論」の編集者で、この事件で特高に捕まった。事件の発端はは政治学者細川嘉六が雑誌「改造」に発表した「世界史の動向と日本」という論文で、これが治安維持法違反として細川が捕まり、それからいいもずる式に「中央公論」「改造」の編集者が捕まり、容疑は非合法だった共産党再建という無茶苦茶なもので、凄まじい拷問を受けた。戦後冤罪の再審で、無罪の判決は事件の66年たっていて、捕まった本人たちは無くなっていた。舞台は舞台中央に円形の舞台があり、男女の俳優たちは全員白いユニフォームで、要所要所でそれぞれ語り、バックのスクリーンに捕捉の文字がでる。芝居の最後に最近安倍内閣が強引に成立させた「共謀罪」の文字が、スクリーンに映される。横浜事件の弾圧の指導者は当時の内務次官だだった唐沢俊樹で、この唐沢が安倍の敬愛してやまない祖父岸信介の岸内閣の法務大臣だった!。簡潔で的確な舞台だった。、

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# by engekibukuro | 2017-11-08 10:38 | Comments(0)  

11月6日(月)M「きらめく星座」こまつ座、紀伊國屋サザンシアー

作:井上ひさし、演出:栗山民也

井上作品の中では1、2を争う傑作だろう。私の一番好きな作品だ。広告文案家の竹田慶介を演じている木場克己が”一番最初に「きらめく星座」に出たのは25年前、そのときは(傷痍軍人)の正一役でした。僕はアングラ出身で、当時はこまつ座のお芝居を観たこともなく、井上さんの戯曲を読んだこともなく、稽古でも随分とつっぱっていたような気がします。新劇の俳優の方たちにアドバイスをいただいても「はい、はい」と言いながら聞かなかったり、生意気そのもの(笑)。そんな中、竹田慶介を演じていたのが、同じアングラ出身のすまけいさんで、この存在には救われました。”とパンフthe座で語っている。わたしもそのすまけいの演技が、いまでも忘れられない。戦時下の浅草のレコード屋「オデオン堂」の一家の物語り。井上の日本及び日本人への愛がみなぎっている作品だ。木場のほか久保酎吉、秋山奈津子、山西惇、木村靖司とみな好演で今回も十分見ごたえがあった舞台だった。

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# by engekibukuro | 2017-11-07 09:48 | Comments(0)