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12月11日S「午后は、すっかり雪」(作・演出:吉田小夏)

青年団リンク 青☆組、アトリエ春風舎。吉田は若手演出家コンクールで受賞し、戯曲作家としても評価が高い女流た。作風は地味ではあるが端正な作り方で、一作一作、確固としたイメージを残す。今回は故向田邦子の隠れた恋と、邦子の両親、妹二人、妹の家族を描いた作品だ。舞台は橋掛かりがある、能舞台仕立てで、邦子への鎮魂の気配が開幕から漂う。邦子の恋人は、歳の離れた男。妻子に去られ、怪我の後遺症で歩行が困難だ。邦子は家族にはこの男の存在は隠していて、ちょうど包装作家として売れ出したきた忙しい日々を縫って、この生活が不自由な男に料理をつくり、つかの間の会う瀬を慈しんでいる。父は旧弊な絶対君主、母と娘3人は絶対服従の家族。嫁に行った次女、婚期を逸しつつある末の妹もそれぞれ問題を抱えている。吉田はそれぞれの人物と出来事を舞台上に変幻自在に交差させて、その人物や出来事の核そのものを顕現させる。結果、邦子の恋物語も向田一家のありようの全貌が1時間半の裡に全て伝わったくる。吉田は一段と進化した。さらに、この芝居の時代がが主に、東京オリンピックの開催前の東京中が建設工事の騒音が絶えない、昭和が変貌した時代。邦子への鎮魂とともに昭和への惜別の思いもこめられた芝居で、胸にじーんとくる結末だ。
 邦子の福寿奈央、妹の天明留理子・高橋智子、妹の夫の藤川修二、父の荒井志郎、それぞれが好演し、邦子の母と恋人の母の様子が違う両役を演じた羽場睦子が舞台を締め、恋人を演じた足立誠の渋い演技が忘れがたい。

by engekibukuro | 2009-12-12 09:32 | Comments(0)  

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