人気ブログランキング | 話題のタグを見る

11月3日(水)M★龍昇企画S★★イキウメ

 本日はW前川の芝居だった。
★「モグラ町1丁目7番地」(作・演出:前川麻子)こまばアゴラ劇場。モグラ町の面々に会うのは今回で三回目だ。五人兄弟も上は60近くなって老けた、老けた。末弟をのぞいてはみな女に不運。一番年下の妹が、”どんどん年取ってもみんな、お先真っ暗、いっそすがすがしいわ”という按配だ。前川も前2作は、才気が空回りしてしまう気味があったが、今回は彼女の狙いどうり、究極の脱力系の芝居が見事に完成、彼女なりの成熟が十分感じられた芝居だった。今回は義母の智子さんが、徘徊して指に怪我をして入院した顛末の話だ。兄弟が悩むのは、智子さんが、生来のぼけっぽいのとアルツハイマーの区別がつかないこと・・。いろいろあってなんとかなった。智子さんは、住んでいた都営住宅が取り壊されたので、知り合いに呼ばれてアラスカ(本当はアラバマ)に移住しようかというところで終わり。ぼそぼそ喋りの台詞術のトーンも全員板について、木のブロックを役者が持ち運ぶセット移動もスムースで、前川が要所々に仕込んでいる笑いのタネもはじけた。順に龍昇、塩野谷正幸、山本政保、稲増文、吉岡睦雄の兄弟は皆面白いが、あえて選べば、三作通じて、今回で郵便局を退職した三男の山本が一番面白かった。始終ニヤニヤ笑っている不謹慎の権化のような男だ。いずれにしろ、みな自分の領分をきっちり守り、この世知辛い世の中をなんとか生き延びようとしている姿はなにがしかの共感をうむのだ。
★★「図書館的人生V0l3 食べもの連鎖ー食についての短編集ー」(作・演出:前川知大)シアタートラム。フルコースのメニューは、♯1/前菜:人の為に装うことで、l誰が不幸になるっていうんだ?♯2/魚料理:いずれ誰もがコソ泥だ、後は野となれ山となれ,♯3/肉料理:人生という、死に至る病に効果あり♯4/デザート:マヨネーズの別名は、全体主義的調味料。♯1、3、4は菜食料理専門の料理研究家・橋本和夫を主軸に展開する。♯1は、橋本に習って菜食主義者になった主婦が、夫にグルテンミートを肉だと偽って食卓に出し、
夫は肉だとおもって食べていたが、事実を知って激怒する。♯3は50台で行方不明になった医師・長谷川卯太郎が実は橋本和夫だった。菜食主義から究極の健康を求めて血を主食にする血飲者になり現在115歳。♯4はテレビの料理番組で橋本のメニューの菜食を紹介。ゲストがそれを食べて放映中はおいしいというが、
おわるとマヨネーズをかけたいと・・。全体に菜食主義とか健康信仰とかの独善を考えさせる内容だ。実際、♯4の根野菜と厚揚げをトマト缶のトマトで炒め煮する料理は、マヨネーズを欲しがるのも頷ける料理だよなあ・・・とも思えるのだ。4つの机(料理台ほか)だけで小道具を全部まかなって、スピーデイーに展開する芝居は前川のセンスが横溢していて面白い。♯3だけが料理関連ではなくて、プロの万引きの話。彼は懸賞専門で暮らしている懸賞のプロの女性の家に住み着いている。彼は、万引きしたものを換金しない。自分がそのとき必要なものだけを万引きするという自分の美学を堅守している。その美学をはずれた万引き者を軽蔑し
て、見つけると説諭する。何回説諭してもきかない万引きを思い余って、掟て破りの通報してしまう。結果、スーパー店主に評価されて万引きG面になり、万引きもしやすくなり2足のワラジをはいて万々歳。万引きは犯罪だが、なんにせよ自分の美学を堅守して生きることは、万引きの犯罪性より優位にたつ。この男を堂々と演じる安井順平が見事で、多大の説得力をもった。しかも他の万引きの連中とかの人物も生彩をはなち、実によくできた芝居で前川の真骨頂だ。「図書館的人生」の続編が待たれる上演だった。

by engekibukuro | 2010-11-04 11:56 | Comments(0)  

<< 11月5日(金)S「カーデイガ... 11月2日(火)★「ダーウイン... >>