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11月9日(火)M★シアターコクーンS★★新国立劇場

★「タンゴ」(作:スワボミール・ムロジェック、演出:長塚圭史、美術:串田和美。
 混乱と無秩序が支配する家族・世界に敢然と立ち向かう白面の青年アルトウルの反抗と、それに脅える家族との不全感は、舞台に真実感のかけらもない虚しさが覆う。アルトウルの激しい無力感と、それに侵食されてゆく大人たちの空虚は、ファッシズムの台頭を許した、20世紀の真実を衝いている。それにしてもアルトウルを演じて、膨大な台詞をこなし、この難役を自分のものにした20代半ばの森山未来は驚嘆に値する。長塚のアルトウルにかける思いが実現していた。周囲を固める、吉田鋼太郎、辻満長、橋本さとし、秋山菜津子、片桐はいりが森山を支え、奥村佳恵が華を添えた。ラストの橋本と辻が踊るタンゴ・ラ・クンパルシータは
20世紀への挽歌として脳裡に響く・・・。
★★「やけたトタン屋根の上の猫」(作:テネシー・ウイリアムズ、演出:松本祐子)。常田景子の新訳だ。ウイリアムズの作品は、「ガラスの動物園」と「欲望という名の電車」以外の戯曲は、ちょっと差があると思っていたし、この芝居も日本で何回か上演されていて、観たことがあるあるが、あまり面白くなかった。しかし、この舞台はそんな先入観をくつがえした。ウイリアムズ自体が、自分の作品の中ではもっともよくできたものだと回想録で書いていて、パンフに載っていた。この成果は第2幕のアメリカ南部の巨大農場主の父と現世的な欲望と無縁なホモセクシャルの疑惑に囲まれた次男の会話の場での、父を演じた木場勝己と次男の北村有起哉の演技による。自分はしらされないが、末期の癌の、裸一貫からたたき上げ成功した父は、父の遺産をねらって蠢動する長男一家のおべんちゃらを嫌い、次男を愛している。次男は遺産に執着がない。父はこの次男の無欲と酒びたりが理解できない。この二人のまったくすれ違った会話の中から、父は次男の純粋さの裏に隠された責任転嫁・現実感覚の放棄を鋭く見抜く。この長い会話は、人間のどうしようもない醜さ、エゴイズムがまざまざと露呈した、深度の深いものだ。木場の演技は、その人生を戦い抜いた強靭で複雑な男を、全幅的に体現していた。北村もそれに応えて、十分拮抗していた。傷つきやすい純粋な人間と、社会的な現実の対立、ウイリアムズ的な対抗軸がはっきり明示された。木場はまさに名優の域に達しているといっても過言ではない。
ほかに寺島しのぶ、銀粉蝶、広岡由里子も力を発揮していた。
▼メモ。オペラシテイビル2Fの丸亀うどんは安くてうまい。新国立へくるときの腹ごしらえには最適。いい店を知った。
・RUNさま、コメンントへの返事はのちほど・・・。
★・ツイッターはやっていませんので読めません。ブログは読みましたが、乱歩の妻に言及していないのが不思議でした。しかし、「乱歩の恋文」は「シアターアーツ」の編集部では、ひごろ意見が違う(当然ですが)部員でも評価が高く、「シアターアーツ」45語(冬号・12月末発売)に戯曲が掲載されることが決まりました。わたしは「褒め殺して真逆のことを書く」というようなことができる複雑な能力は持ち合わせておりません。すこしでも良いところがあれば取り上げようとしていますが、それがおうおうにして贔屓の引き倒しになるやもしれないので、そのことは厳に自戒しています。

by engekibukuro | 2010-11-10 09:36 | Comments(1)  

Commented at 2010-11-11 04:13 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。

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