人気ブログランキング | 話題のタグを見る

11月17日(水)Sノルウエー国立劇場「人民の敵」

国際イプセン演劇祭 原作:ヘンリック・イプセン、脚本:マーリ・モーエン/ルナール・ホドネ、演出:ルナール・ホドネ、あうるすぽっと。
 裸舞台で現代服のイプセンン劇だ。トマス・ストックマン博士は、自分の故郷の町にある温泉施設専属医であり、兄のペーテル・ストックマンは町長で町の有力者だ。ストックマン博士は、温泉施設の水が汚染されていて、健康に有害であることを発見し、それを告発するべく活動しはじめるが、兄たち有力者が、改善には多額の費用がかかるし、改善修理の間は温泉が営業できなくなり、町の財源がなくなるといって、博士の活動を妨害する。それでも告発し続ける博士を、妄想だといって町中が博士一家を排斥し、「人民の敵」だと弾劾す。孤立無援の博士は、それでも町に踏みとどまって・・・。
 裸舞台での、余計なものを削ぎ取った芝居は、テキストの真髄だけを明白にして、とても新鮮であり、イプセンのメッセージを明確に伝えていた。俳優の動きも簡潔で、人物像がそれぞれ的確に区分けされて、ときにダンスシーンもあり、イプセンを現代に蘇らせる機能を十分に果たしていた。この劇をイプセンは「喜劇」だと呼んだそうだが、目の前の利害だけにとらわれて、やかてくる災厄を心配をしない人民も、排斥されればされるほど硬直して説得の仕方を考えない博士も、まさに喜劇でしかないだろう。これは日本でも頻発した公害問題、ひいては政治現象にも十分つうずるもので、イプセンも泉下で笑っているだろ。
▼メモ。藤原新也「死ぬな生きろ」を読んだ。藤原の母の死後、母が中断した四国の巡礼を代わって最後まで果たす。その道中の風景の写真集だ。1ページに藤原が墨書した写真のネーム。次の見開きに写真、あわせて3ページの組み合わせが、四国八十八箇所の巡礼地になぞらえて、一夜から八十八夜のタイトルが付く。途中で会った、息子の病を治すために息子と巡礼する母が、巡礼を幾たびも重ねても一向に好転しない息子の病に絶望して、海での水中自殺を図り、波に打ち返されて生き残った話から「死ぬな生きろ」という総タイトルが付いた。悩む心が無化すると、本来の自然な肉の心が浮上して、心が清らかになると・・・。それを如実に感じさせる写真集だ。
・夜は神保町の萱へ。いつものコナツとサカエちゃんとの閉店後のおしゃべり、一月1回の楽しみ・・。

by engekibukuro | 2010-11-18 11:47 | Comments(0)  

<< 11月18日(金) 11月15日S 紀伊国屋ホール >>