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12月23日(木)M「男は男だ」(作:ブレヒ、演出:中野志朗)

恵比寿・エコー劇場。<文化庁芸術家海外研修(新進芸術家研修制度)の成果>公演。
 パンフの岩淵達治氏、新野守宏氏の解説を読めば、晩飯のおかずの魚を買いに出た荷揚げ人夫のガリ・ガイが、途中でインドのイギリス軍の兵隊の員数あわせのための身代わりに、戦争にゆく破目になってしまうという話で、妻が湯を沸かして魚を待っているというのに、むしろ喜び勇んで戦争にゆく、ここに一介の荷揚げ人夫が戦争機械になってしまい、ナチス・ドイツの台頭の捨石になる、という芝居だということが整然と理解できるはずなのだ。が、ブレヒトの若書きで、引用だらけの激しく主観的な芝居で、そのテクストを中野が映像を多用して舞台化するが、全体の推移がなにがなんだか解らない舞台で空転するばかり。副題に「喜劇」とあるそうだが、笑うに笑えない。ただ、この空転が、ひどくつまらないとか不愉快ではなくて、ガリ・ガイを演じる笠木誠などいかにもそういう戦争機械になってゆくプロセスを感じさせはするし、空転のエネルギーも客を引っ張る力にはなっていた。難しい戯曲に挑戦した中野の悪戦の成果とも言えるが・・・。

▼メモ。劇場が恵比寿なので、ガーデンシネマに赴きウッデイ・アレンの「人生万歳」を見た。ひさしぶりのニューヨークが舞台で、だからか水をえた魚のような快作だった。ノーベル賞受賞の一歩手前までいったくらいの物理学者が、妻との不仲で窓から投身自殺をするが、失敗して妻と別れてダウンタウンで暮らしている。人間嫌いで極端な皮肉屋の老人だが、下町暮らしで友達もできた。ある日美しい家出娘をしょうがなくて助けたことから、この若い娘と結婚する。それが発端で、その娘の南部からでてきた母親とか、父親とか、ダウンタウンの人間たちとかのもつれあいが軽妙かつシニカルに描きとばされて、ウッデイ・アレンの真骨頂の映画になった。特に老人たちのエロスの再生、知識の喜びが合体して、人生最末期の豊かさをゲットした顛末は、たしかに万歳と叫びたくなる風になっている。久しぶりに映画館で大笑いできた。アレンの数々の映画をみた、ガーデンシネマがこの映画を最後に閉館する。好きな映画館だっただけにまことに残念だ。クリスマスイブの前夜、ガーデンのイルミネーションが輝やいていた。

by engekibukuro | 2010-12-24 12:10 | Comments(0)  

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