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3月9日(水)S「みつわ会 久保田万太郎作品 その二十一」

☆「ふりだした雪」☆☆「舵」(演出:大場正昭)六行会ホール。
 ☆戦前の庶民の冬は寒かった。火鉢一つで暖をとる。その火鉢のそばで、女がひとり針仕事をしている。奥では厄介になっている伯母と客がなにやら話しこんでいる。客が帰り、伯母も湯にゆくと外にでるが、外は雪が降り出していた。後でわかるが、女は薄倖のこれまでで、、最初の夫とは死別、二番めは酒飲みの勝手放題の男で別れた。だが、その男が、女が一人だと見極めて上がりこみ復縁を迫る。伯父がかえってきて、男を裏口から逃がし、近所の蕎麦屋で・・・と。男が入った蕎麦屋には、女をどこかしらで見初めた、妻を亡くした中年男が再婚の相手にと世話好きを介して伯母に頼み込んでいる現場に出くわす。一行が帰って女が復縁をきぱり断るのだが、最前の男がタバコいれを忘れて戻ってきて、女が前夫と話しこんでいる場に出くわす。暗転、屋台のおでん屋、見初め男と復縁男が顔を合わす、トタンに双方掴みかかり、上手に消える・・。そのまま川に飛び込み二人は折からの雪、凍えて土座衛門に・・。女はその二人と無関係に思うことがあって、自分で自分に愛想をつかし、伯父に長い手紙を書いて家をでる・・。二人の40を過ぎた、当時では末が見えた年頃の男が、薄倖の美しい女にとことん執着する気持ちが、寒さを増して舞台にみなぎる。女を八十川真由野、復縁せまり男を菅野菜保之が演じた久保田の世界。屋台のおでん屋の決闘シーンが映画の名カットのように鮮やかで秀逸。近頃では瞬く間の暗転が、ごとごと時間をかけて場を替える手仕事が懐かしくも嬉しい。☆☆は浅草の三社祭の日に、袋物職人兄弟の家に、あれこれあって家を出て芸者になり、証券会社の社長の妻になった長女が久しぶりに帰ってくる。その長女を浅利香津代が演じる。ほかの役者とあまりあわないが、それも行き違いを見せる芝居だから気にならない。浅利の祭りの神輿を体と目を動かして眺める芝居が、久しぶりのお芝居を感じさせて楽しい。大場の演出は丁寧で久保田の世界をくっきり見せる。演劇的に今、久保田の世界がどうのという話以前に、久保田の世界の現前は、もう上質な骨董品として眺め、その世界に身をゆだねればもうそれでいいので、何をいわれてもそれが上質な演劇体験であることは体がしっていて、大場の演出はそれを保証しているのだ。
▼メモ。谷岡健彦、下総源太朗という重症の久保田ファンと新規参入の堀切克洋君と観た。終わって4人で中華居酒屋で呑み、その店にお芝居組もきて、楽しい飲み会になった。菅野さんに昔、文学座で大矢市次郎が客演ででた久保田の名作「大寺学校」の話をした。若い頃の菅野さんのすがすがしい演技が今でも目に残っている。菅野さんは役者気取りが全く無い親しみやすい方だった。

by engekibukuro | 2011-03-10 13:11 | Comments(0)  

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