人気ブログランキング | 話題のタグを見る

4月5日(火)MEMO



▼新潮選書・松岡和子「深読みシェイクスピア」を読んだ。これは松岡和子と編集者の小森収との対談形式の本。小森は、1964年から12年間、週刊の伝説的ニューズレター「初日通信」を編集・執筆・発行した名編集者だ。必ず初日に観て最初はガリ版の通信だった。劇評は辛口の容赦ないものだった。この小森君は最初はあの「噂の真相」の編集者だった。わたしが「噂の真相」で劇評を書いていたときの担当だった。その縁で、当時のゴールデン街の「銀河系」という飲み屋で毎晩たむろしていた私と映画評論家の松田政男さんとが、「初日通信」の顧問(小森君の扱いの呼称は”ご隠居”)をして、毎年の「初日通信大賞」というイベントなどとを手伝い、毎月のベストテンを選んでいた。だから、80年代の小劇場のオレの知識も経験も小森君から教わったものだ。「第三舞台」も岩松了の処女作も、大石静と永井愛の二兎社の初期の舞台も・・。そのあとは独立した編集者になり、ミステリー評論家でもあり小説も書いている。
 松岡さんもAICTの書評委員として一緒だったりしているから、この対談は直に親しみが感じられて面白かった。取り上げられているのは、「ハムレット」「ヘンリー六世」「リア王」「ロミオとジュリエット」「オセロー」「恋いの骨折り損」「夏の夜の夢」「冬物語」「マクベス」、各作品の翻訳する際の特徴、というより翻訳するさいに出来するあらゆる問題を、小森の問題提起、読者・観客の代表としての感想などを松岡和子が答えてゆき、シェイクスピアのそれこそ計り知れない奥深さを感じさせてくれる本だ。松岡さんが、翻訳の要は当該戯曲の上演の稽古場にあるという話は聞いていたが、この本でそのことの重要さがはっきり解った。役者が演じ、せりふを口に出して、翻訳のミスや新しい発見があることが、如実に理解できた。改めて蜷川シェイクスピアの全翻訳、ちくま文庫でのその発刊など、シェイクスピアの翻訳家としての松岡さんの凄さが納得できたのだ。
ただ、ひとつだけのわだかまったのは「冬物語」。「冬物語」を最初に観たのは松岡さんと同じ、1970年のRSCのトレバー・ナン演出の日生劇場での来日公演だった。シチリア王レオンテイーズの開幕冒頭のとんでもなく不条理な妻への嫉妬・誤解が印象深く面白かった。この本ではさいたま芸術劇場での「冬物語」で唐沢寿明がレオンテイーズに扮したが、唐沢のその冒頭の演技の解釈が、合理的で説得力があると評価されいるが、わたしはあれを観て、とても説明的で不条理な面白さを減退させていると思ったのだが・・・。

by engekibukuro | 2011-04-06 09:08 | Comments(1)  

Commented at 2011-04-06 14:06 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。

<< 4月6日(水)S「沈黙の王」(... 4月4日(月)S「とんでもない... >>