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5月26日(水)S「どん底」演劇企画集団THE・ガジラ

 原作:M・ゴーリキー、上演台本・演出:鐘下辰男。
 「どん底」は新劇の代名詞、なんかい観たことか・・・。しかし、この鐘下版「どん底」は本邦「どん底」上演史で、こんなに既成のイメージというか、役柄や出来事の決まりを変えたのは初めてだろう・・。最近では、ケラの「どん底」があったが、ここまで改変しなかった・・。おおむね上演史に沿っていた・・。はたして「どん底」は生まれ変わったか・・。わたしは、土方与志、村山知義の演出した「どん底」も、明るい「どん底」として演出された公演中に亡くなった岸田国生の演出も(この公演でのサーチンを演じた芥川比呂志は今でも目に焼きついている)観た。映画では中学のときに観たジュリアン・デヴィヴィエ監督のフランス映画。今は丸井のビルになっている新宿の日活名画座でたしかルイ・ジュウベ特集のときで、ルイ・ジュウベが男爵、ジャン・ギャバンがペペル、フランソワーズ・ロゼーがヴァシリーサだった。この「どん底」のラストシーンは男爵とペペルが木賃宿から抜け出して明るい道を歩いている不思議後な光景だった。翻案の黒沢明の「どですかでん」で役者をやった藤原鎌足とヴァシリーサの山田五十鈴・・!
 さてこの舞台、なにより驚いたのは従来怪しげだが巡礼姿を装おった老人として演じられるルカー(この役は滝沢修のものが有名)が、若くて殴り合いまでする精悍な役になっていて、親切ごかしの偽善者という位地ずけは消し飛んでいる。錠前屋の女房は死ぬと、とたんに亡霊になって歩き回る・・。そのほかほとんど従来のそれとしていた役柄は変調していてとまどうこと、とまどうこと・・。それに鐘下定番の大音響は随所に鳴り響くし、荘重な教会音楽のもとでの霊的、宗教的なシーンもある・・。役者も生硬さが目立つ・・。しかし、だからといって、つまらないのではない。なにか、このヴァイオレンスと刹那性とが合成したガサガサした舞台は、従来の新劇の演出の基調だった「人間賛歌」ではない、現在的な「どん底」に向き合っているとも思えるのだ・・。いまの日本の表面をつくろっているタガがはずれたらたちまち現出する風景かもしれないとう予兆をはらんでいる舞台だとはいえる。
・▼メモ。「小説新潮」に連載していた佐藤優「落日の帝国ー私のイギリス物語」が終わった。佐藤が外務省のロシア語の研修生としてイギリスの軍隊所属のの語学校で学んでいたとき、ホームステイしていた家の男の子グレンとの交流記と、ロンドンに亡命していたチェコの東欧関係の書籍を扱う店で、チェコの神学書を買い、その店の店主との交流などを描いた作品だが、文章が素晴らしい・・。まさに佐藤は有識者・評論家よりも正真正銘の作家だと確信させる物語だった。グレンとの会話、つれっ立ったゆく食事のときのハナシなど忘れがたい印象をのこしたのだ・・・。

by engekibukuro | 2011-05-26 12:32  

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