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3月7日(水)M「パーマ屋すみれ」(作・演出:鄭義信)

新国立劇場。
 打ちのめされるような傑作だった。パンフで流山児祥との対談で”こういう話(在日の”どっぷり貧乏話”)を書くのは日本ではぼくだけ”だと語っていたが、在日の特殊な話ではなく、忘れてはいけない日本の戦後史の一断面を見事に描き抜き、現在につなげなくてはならないというチョン・ウイシンの気持ちが強烈に伝わってくる芝居なのだ。舞台は1965年の九州の炭鉱で働く、在日朝鮮人や日本人が住む有明湾が望まれるアリラン峠と呼ばれる土地での物語り・・。国のエネルギー政策で石炭から石油に替えるという時代の国家・資本家と労働者の対立が激化しつつあった頃、ここで散髪屋をやっている須美(南果歩)の店が舞台、炭鉱でリーダー格の先山だった夫(松重豊)がガス事故で体をこわし、働く気をなくした・・、須美の姉初美(根岸季衣)、妹春美(星野園美)がいて、初美の内縁の夫(久保酎吉)は炭鉱の第一組合の幹部、春美の夫(森下能幸)もガス事故で半身不随だ。物語は三姉妹を中心に話がまわるが、初美や春美の夫は日本人・。徐々にじょじょに、炭鉱が廃坑になるプロセスアでアリラン峠で暮らす人々が追い詰められてゆく・・。ウイシンは「焼肉ドラゴン」を書いたとき、伊丹の空港建設の労働者が九州の元炭鉱労働者だと知って、この芝居を書いたそうだが、当時の総資本と総労働の対決といわれた炭鉱争議、第一と第二の組合の対立などの時代の炭鉱地帯の暮らしを調べ取材し、様々な人物を創りあげ、彼ら、彼女らの性格の細かいひだまで造形したて、この時代を再現できたのはおどろくほどで、それも重苦しい暗いトーンでなく、「焼肉ドラゴン」と同様な重喜劇のトーンで、話を重ねてゆく・・・。廃坑になった最後は須美夫婦だけが残り、みな四散してゆく・・。この舞台の真実性を支えたのは、作・演出の要請に応えた演技陣の充実だ。南、根岸の健闘、特に太ったからだで愛嬌たっぷりの星野の病身の夫への献身ぶり、遂には病苦がきわまった夫を殺す妻の悲哀は際立った演技、松重、久保の演技も強いアクセントで舞台を支えた。石炭のつぎに石油、その先はという台詞が、日本のエネルギーの底辺を支えた当時の労働者の運命が、原子力エネルギーの今日の惨事につながるのがこの舞台で自然に納得できる・・。チョン・ウイシンは現代日本演劇で本当に貴重な作家だということが如実に感じられた芝居だった。

by engekibukuro | 2012-03-08 09:40 | Comments(0)  

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