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6月19日(火)S「天日坊」シアタ^コクーン

作:河竹黙阿弥、脚本:宮藤官九郎、演出・美術:串田和美。
 コクーン歌舞伎、平成6年にはじまって今回で第13弾。串田と一緒に始めた盟友中村勘三郎は出演せず(病気も重なった)、勘九郎と七之助が舞台を支える・・。歌舞伎役者のほかに白井晃、旧自由劇場の真那胡敬二、内田紳一郎、大月秀幸、大人計画の近藤公園が出た。
 この作品は慶応3年以来、145年ぶりの上演だそうで、それを串田が宮藤に今に通ずる台本にと依頼して、よくできた脚本になった。数奇な運命に弄ばれた、天日坊の話を、今につうずる”俺は誰だあ!”と叫ぶ、苦難のアイデンテイテイーの物語として提出したのだ。歌舞伎の見せ所や、山場のつくりかたなど、歌舞伎のテイストもたっぷり楽しませ、それお”マジカヨ!”みたいな現代コトバも飛び交って、それが自然に融合するのだから、宮藤の才能に改めて感嘆する・・。この寺で養われた孤児が実は頼朝のご落胤だとか、木曽義仲がどうのとか、歌舞伎の錯綜した迷路のストーリーを、宮藤の脚本を最大限に活かして、苦難に継ぐ苦難、人物の了見をあざ笑うがごとき、意外性の連鎖の物語を、そのひと場(一場)々を小屋がけの見世物に仕立て、本舞台と微妙に交錯させて進める串田の演出も、歌舞伎役者の芝居と白井晃の演技に違和感を感じさせないのや、これが串田のお目当てのひとつだった宮藤の脚本を読んで最初に浮かんだという、トランペットの音とひびきを、「上海バンスキング」からの元自由劇場のメンバーン中心に演奏させ、その演奏がラストに高らかに鳴り響き、舞台はいやが上にも盛り上がったのだ・・。コクーン歌舞伎のひとまずの完成というより、今年70歳になった串田の演劇への自分の夢が叶えられた串田演劇の集大成といえると思う。役者では、女形の盗賊人丸お六の七之助がキレが素晴らしくて、劇場を圧する精彩を放ち、官九郎は複雑きわまる台本の初役で、”俺は誰だあ!”のアイデンテイテイ喪失の悲痛な叫びは聞こえたが、これから上演をかさねて、より自分にフイットさせてゆくだろう・・・。

by engekibukuro | 2012-06-20 09:30 | Comments(0)  

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