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10月31日(水)★M「るつぼ」★★S「林光の男と女」

★作:アーサー・ミラー、翻訳:水谷八也、演出:宮田慶子、新国立劇場。
 宮田慶子のドラマのツボを適格に捉え、開幕から終幕まで少しのたるみもなく演出した出色の舞台だった。17世紀のアメリカ・マサチューセッツ州セイレムで実際に起こった魔女裁判をアーサー・ミラーが題材にした劇だ。農夫ジョン・プロクター(池内博之)は妻エリザベス(栗田桃子)の病弱のせいもあって、召使いの少女アビゲイル(鈴木杏)と不倫関係をもってしまう。スカートが風でめくられのにも罪の意識を感じるように教育された厳しいピューリタンの社会での性の抑圧から、身体の暴発を体感したアビゲイルは、エリザベスを追い出して、妻の座につくために彼女を魔女だといって告発する。折から村では悪魔憑きへの恐怖が蔓延していて、アビゲイルがそれに乗じて友達の少女たちの思春期特有のヒステリー症状を利用して魔女のせいで気絶したり仮死状態になる場面を捏造させる・・。村は凄まじい魔女狩りが始まり、無実の人が次々に逮捕され、ボストンから副総督のダンフォースがでてきて、どんどんエスカレートしてエリザベスはもとより、プロクターも逮捕される。悪魔の加担者魔女はただちに絞首刑の判決だ。アーサー・ミラーはこの騒動を描いて、プロクター、エリザベス、アビゲイルの中軸にして、大勢の村人たち、少女たち、確執する牧師らを一人ひとりの特性を浮き彫りにするように描き出し、特に魔女など信じていないと思わせる怜悧なダンフォースが厳格なキリスト社会の秩序を第一義的に守るために村人の良心を蹂躙する手練手管の迫力を含め、その総体はリアリズム演劇の精華だ。その戯曲の力を宮田は十全に引き出し、最初から最後まで緊張が途絶えない舞台を創りあげた。とくに少女たち狂乱する異様なシーンは特筆もので、この混乱の愚かしさを象徴する・・。そしてこの芝居が、これほど心を掴むのは、いまでもこのような愚劣事に振り回され、ダンフォースのよな権力の代弁者に正義や良心が阻まれているからだろう。そしてその根本がミラーのいう「人間という、この偉大で厄介な存在」への挑戦なのだ・・。俳優陣のそれぞれの個性を出し切ったアンサンブルが見事で、特にダンフォースを演じた磯部勉が一等地を抜く、それと少女の重要人物メアリー・ウオレンの深谷美歩が印象的で、彼女が新国立劇場研修出身だというのが劇場の成果だろう・・。そして、どんな強圧にも動じない敬虔な老信徒を演じた佐々木愛が舞台を締めた・・。
★★林光追悼コンサート、四谷区民ホール。黒色テントの林の作曲の劇中歌を歌ってきた新井純とこんにゃく座の大石哲史の二人のコンサート、林のソングの大半が佐藤信の作詞だが、今回はその佐藤作の作品「荷風オペラ」からの歌が大石と新井のあでやかな着物姿で歌われたのが嬉しかった。佐藤の作品では「鼠小僧」の連作などの代表作も無論いいが、佐藤の芝居(オペラ)で一番好きなのはこの芝居・・。この芝居の荷風は太鷹明良で新井がたしか玉の井の私娼を演じた・・。大鷹がはこんなに歌がうまいのかと感心した芝居だった・・。

by engekibukuro | 2012-11-01 11:06 | Comments(0)  

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