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3月13日(水)「駆け込ミ訴へ」KAAT×地点 共同制作作品

原作:太宰治、構成・演出:三浦基。神奈川芸術劇場、3月26日まで

 太宰の原作「駆け込み訴え」は、全編口に盃をふくみながらの口述筆記で、淀みも、言い直しもなく、言ったとおりに太宰夫人が筆記して、そのまま出来上がったものであるという。まったく信じられないような話だ・・・、一気呵成にこんな素晴らしい小説ができてしまうとは・・。これはイスカリオテのユダのモノローグで、ユダがキリストを裏切るまでのキリストへの愛憎をせつせつと語っているのだ・・。キリストの教えも神も信じないが、キリストの美しさだけは、この美しさに打たれてキリストの無理な頼みも、自分の財産をおしげもなく使ってはたしてあげたのだ・・。最後の晩餐で”この中に裏切り者がいる”とキリストはユダの口にパンくずを突っ込んだ・・。
 この原作を三浦が、「地点」の安部聡子、石田大、窪田史恵、河野早紀、小林洋平の5人のパフォーマンス用の台本に創りあげた。逆開帳の舞台から、5人が走ってでてくる。。、ピーチク、ピーチクとかホタホタほ ホとかの地点ボイスを呟きながら、これがユダのモノローグへと、小説の文章は地点語の断片に変形し、5人がそれぞれの役割を持ちながら、断片はラップ音声に変貌して、太宰の小説は見事なラップ記述のパフォーマンスができあがった。話が話だから、随所に賛美歌が挟まれ、ラストはバリトン歌手青戸知の朗々たる賛美歌の詠唱で終わる・・。ラップやパフォーマンスの細部は、その流れの様々は充満したデテイールが詰まっていた。さて、この舞台はいったいなんだ?三浦は太宰が大好きで、だからといって太宰の小説を忠実に舞台化することに関心があるわけではなく、太宰のこの小説からキリスト教へ、さらに資本主義へと自分の関心を延ばしてゆく。。、そのことを日本近代思想史の学者で、音楽評論家でもある片山杜秀との対談で話していて、それはこの舞台を観た観客に伝える、伝えたいことの参考にはなりにくいし、そもそも客になにを伝えたいのか、三浦はそんなに考えているとは思えない。その極私的な試行錯誤が、その積み上げが「地点語」の熟達になり、安部聡子や石田大のような特異で魅力的な俳優を生み出し、まったく客にも世間にも媚びない自分の舞台芸術をどづどうと築き上げてきた・・。この舞台では、終わったとき”ブラボー”という声が一声上がった・・。芝居でこんなことは珍しい・・。だが、素晴らしい舞台だけど、まっとうな劇評を書くのはとても難しい、それでも挑戦のし甲斐があると思うし、思うしかない・・。

by engekibukuro | 2013-03-14 09:33 | Comments(0)  

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