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6月4日(火)M「帰還」(作・演出:坂手洋二)燐光群

 2011年に劇団民藝で大滝秀治主演で上演された作品の本拠地での再演だ。大滝の役は、藤井びんが演じる。それに客演に木之内頼仁が加わった。藤井、木之内は山崎哲主宰転位・21の主力俳優だった。坂手も19歳のときに転位・21に入っていたのだ・・。
 高校の美術教師だった横田正は、ある日入院していた病室のテレビで、九州の川辺川でのダム騒動の画面に釘付けになる・・・、水没地の村落でただ一人柱に自分を縛って買収に応じない女性の姿をみたからだ・・、横田はすぐに孫娘に運転させて現地に向う・・、いや”帰る約束”を思い出したのだ・・。1950年代、左翼活動の大方針だった山村住民を目覚めさせる山村工作隊の一員だった横田は、活動でのトラブルでか、この山村に逃げ込んできた・・、村人は、一人暮らしの女性の家にかくまわせた・・、横田はその村でさまざまな農業技術を教え、絵を描き、家主の女性とも定かでない思いの揺曳が・・。そして”帰ってくる”と言い残して村を離れた、今は妻に死なれ、息子は重病で孫娘に絵を教えている・・、この芝居は、横田と家族や村人、一人孤立、自給自足で頑張っている、昔帰還を約束した女性の娘などとの交流が、過去と現在の坂手が語る複式夢幻能の様式が加味されての現実と幻想が、村の河童伝説など民俗風のシーンなども参入して、複雑に展開してゆく・・、国の国土政策の変遷で生活を壊された民衆の、ダムを軸にした戦後史を描いた劇として坂手ならではのヴィジョンを包含した作品だった・・・。個人的な思い出だが、わたしは共産党員の家に生まれ育ち家が共産党の細胞会議の場所で、50年代の山村工作などの会議や、六全協の時代の雰囲気を少年時代に体験している、さらに土木工学の図書の出版社に就職して、土木雑誌の取材でダム現場に何回も行った。九州では筑後川の、あの蜂の巣城で有名になった下筌・松原ダムにも行って反対運動の城主の室原知幸さんや、九州地建に取材した。ダム工事を見学して、ダム工事というのは、大地を建設機械で陵辱している、とてつもなく無残な光景だと思ったものだ・・。この芝居を観て、そういう想い出が蘇ってきて、懐かしくも、また粛然ともしたが、村いちばんのイチョウの木の絵なども効果的にちりばめられて坂手しか書けない意欲作だと、民藝の舞台ともども思った。ただ、主人公横田を十全に演じるのは結構難事だとも思った。大滝は歳の功とキャリアでそれらしく演じたが、藤井は自分の柄にマッチさせた好演だが、いまひとつおさまりがわるいと思ってしまうのはのは、これはしょうがない、客の思いが揺れる難役なのだから・・。

by engekibukuro | 2013-06-05 10:17 | Comments(0)  

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