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7月23日(火)M「ワーニャ伯父さん」演劇集団円

作:アントン・チェーホフ、台本・演出:内藤裕子、東京芸術劇場シアターウエスト。
 なかなかの「ワーニャ伯父さん」だった・・。下手に階段、上手に3,4本の白樺の木・・。それらに挟まれたプレイゾ-ンの部屋・・、蝋燭の光が主力のような薄暗いトーンで舞台はすすんでゆく・・。さすが円、役者がいい、金田明夫のワーニャは最初は、ちょっとくさくてなじみにくい感じだったが、これはこれで独特の味がどんどん決まってきてチェーッフが託した人間像になってきた・・。ソーニャの山根舞も自分の不器量などとのありようを潔く受け入れて実直に生きてゆく姿がまぶしいくらいだし、朴ロ(王路)美のエレーナも自分の美貌をもてあまして退屈しきっている女を演じきり、その夫セレブリャコース教授を演じた藤田宗久も虚しい学問を積み上げただけの学者の空っぽの人間像が際立っていた・。吉見一豊のアーストロフ、この世紀末ロシヤのインテリの医者の誠実と虚無感がないまぜになった人間を強く印象ずけた・・。内藤の台本は、一種の退屈にも通ずる日常の背景の細部を外して、シーンごとの急所だけを強調する、少しチェーホフの芝居にしては鋭すぎる感じはあったが、この芝居のエッセンスはきっちり確保された演出だった。威張り腐った教授と、エレーナがこの田舎の屋敷に滞在して、ワーニャやアーストロフは退屈で報われない生活ではあっても、それなりに頑張っていたのに、エレーナの妖しい魅力の虜になって、もう彼女に近ずくことしか考えなくなってしまい、アーストロフは仕事を放り出してこの家に入り浸りになり、ワーニャはそれが遠因で教授にピストルを撃つて失敗・・。とにかく一件が落着して、教授夫妻は去る・・。やっとワーニャも落ち着いてたまった仕事にかかるが、ラストのソーニャの生きるのがやっとのワーニャに向って”伯父さん、生きてゆくのよ、そしていつか死んでやっと安らぎ、神様によくやったと慰めていただくのよ・・そのときまで生きていかなければ・・”この有名な台詞を山根はあまりパセテイックに語らないのが、かえって胸に沁みた。ラストにアーストロフが壁のアフリカの地図を見てしゃべるシーンがあるのだが、壁に地図はない、今回は机の上の地球儀だった・・。一連の騒ぎを”鵞鳥がガーガー騒いでるだけよ”と吐き捨てた婆やのマリーナが、教授夫妻が去って普通のお茶の時間、食事の時間がきちんとできて、ふつうのの日常が戻ってきたことを静かに喜ぶ・・、このマリーナを演じた高林由起子の存在感が人間の暮らしの基はなんなのかを限りなく示唆していた舞台だった。

by engekibukuro | 2013-07-24 10:23 | Comments(0)  

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