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4月30日(水)M「わたしを離さないで」(演出:蜷川幸雄)

原作:カズオ・イシグロ、脚本:倉持裕、彩の国さいたま芸術劇場
 臓器提供のためだけに生まれたクローン人間を題材にしたカズオ・イシグロのSF小説の舞台化。倉持は戯曲化にあたって原作のシツエーションを日本に移し替えたが、原作のプロットは忠実に守った。休憩もあるが開演13:00、終演17:30の長丁場だが、主役の多部未華子、三浦涼介、木村文乃がおちついて役を自分のものにしていてこの特殊な世界を成立させていた。原作を読んだときは、このクローン人間を臓器提供それに付随する看護人になるための教育をする学校生活、その後の運命もまさしくSF小説ではあるのだが、SFとはまるで感じさせない普通の人間の小説、一切クローンがどうとかの意味ずけなどない素晴らしい小説だと思って読んだ。そのあとマーク・ロマネク監督で映画化された。これも見応えのある映画だった・・。イギリスの街のなかで本来不可視とされているはずのクローンの若い男女が生きていて、臓器提供の使命を終えると衰弱して没するのだが、映画だと当然きっちり普通の人間とまったく同じに見え、こういう人間が極端に不幸になる運命はなんとも言えなく不当だと義憤を感じたものだった、人造人間というSFの枠を超えた、本来は禁忌の出来事だから、小説では感じなかった倫理の問題が出来してしまうのだ・・。さて、この舞台はどうだったか・・。その前に、パンフにこの芝居で彼らの寄宿学校の主任保護官を演じた銀扮蝶さんの文章がとてもいいいので引く・。”クローンや臓器の細胞培養など最先端の科学技術を扱っていますが、この作品の主題は、人間にとって根源的な「さびしさ」にあるのでは、と私に思えてなりません。ひとりぼっちで生まれ、そしてひとりで死ぬ。どんなテクノロジーが進もうと、その「さびしさ」から人間は逃れられない。でも、それは決して悲観するようなことではないと思う。どんな芸術も、その「さびしさ」に真正面に向き合うことで生まれたのだから。観客の皆様もぜひ劇場で「さびしさ」に対峙する贅沢な時間をすごしていただければ嬉しいです”、原作はまさしくいやようもな人間がく到達してしまった技術と、それに由来する局限化された人間本来の寂寥を治癒する芸術が渾然一体化した現代小説だった。この蜷川演出では少ない静謐なたたずまいをもった舞台だった。個人的には、小説、映画、舞台といろいろ考える機会を与えられた興味深い舞台だった・・。

by engekibukuro | 2014-05-01 08:54 | Comments(0)  

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