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5月30日(土)M「廃墟」(作:三好十郎、演出:鵜山仁)

劇団文化座+劇団東演、文化座アトリエ
 戦後70年、あらため日本の戦後70年はどういう時代を築いたのか、日本人は戦後の民主主義をほんとうに体得したのか、それらが、今根本的にいろいろな分野で問われ、検証されている。そのことを演劇の世界から問い、検証したのが、この「廃墟」の舞台だ・・。この三好の書いた芝居は、正直観ていてしんどい、いまどきの芝居の感触とはまるで異なった舞台だが、あの悲惨な戦争に至った日本と日本人を根本的に抉り出す芝居で、その登場人物たちの議論の当否をふくめて、現在検証すべき原点を示した舞台であった。終戦直後の大学教授の一家、配給は大幅に遅延し、闇で買うこともままならず、明日の朝なにを食べるのかもおぼつかない日々、かろうじて焼け残った一部屋で家族だけでなく、身寄りのない知り合いも住んでいる、まさに廃墟でやっと雨露をしのいでいる一家・・。この芝居は基本的に、大学教授だった父と、左翼の新聞記者の兄と秀才だったが、いまは父や兄に幻滅して不良になってしまった弟の、その3人のデイスカッションドラマ、つまり、三好の思考そのもの演劇化で、三好は演劇を思考のルーツにしているのだが、その三者の日本人論その他際限なく波及する議論が主体の芝居が、一家の女性たちの女性らしい介入、恋愛問題など、芝居としての感興も良い塩梅にふくませてとにかく聴かせて、見せてしまう、やはり特異な貴重な劇作家だ・・。これも、文化座と東演という地味だが、ながい歴史をもつ劇団の底力をもつ劇団の俳優たちの込み入った長台詞をきちんと聞かせる演技力のもたらしたものだ。文学座からの客演の名越志保も貢献していた。この芝居、敗戦の時8歳だった私にもその時代の大人の世界への見聞と感触が充分蘇った舞台だった。戦後の窮乏、そのごの再建、バブル時代をへて、日本と日本人はどう変貌したか、日々、否定的な様相が深まっている現在、まことに時宜を得た上演だった。
・おもろ、泡盛で心を鎮める・・。

by engekibukuro | 2015-05-31 09:56 | Comments(0)  

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