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10月25日(日)ミッシェル・ウエルベック「服従」

大塚桃ー訳、佐藤優ー解説 河出書房新社

 ウエルベックは「素粒子」以来愛読してきたが、この新作は意表を突く・・・。主人公はユイスマンスの研究で博士号を持つ学者、パリの大学の教授だ。40代の独り者で、女子学生といろいろ付き合い、寝ている、ミリアムという22歳の学生と深くなったが、親がユダヤ人で、フランスのイスラム化が顕著になってきているのを警戒してイスラエルに移ってしまうので、彼女もイスラエルに行ってしまう。この主人フランソワは一人っ子で、父も母も死ぬ・・、無類のグルメでシニカルなこの男の暮らしっぷりや、そのたびの意見が、これがウエルベックの語り口が独特で無類に面白いのだが、今回の小説は、近未来といっても5,6年先のことだが、フランスが刻々とイスラム化して、要職にある人々が、次々イスラーム教徒になってゆく、その経過・プロセスの報告が緊迫していて、いくら学識豊富なインテリでも、この世の中の変化に追い付けず、徐々に怯えて暮らすようになり、ついに新しい大学に招聘され、そのイスラーム教徒の学長、この学長は一夫多妻で40代の第一夫人と15歳の第二夫人をもっているのだが、この学長の感化で、最後はイスラム教徒になり、イスラムの神に”服従”する決心をしたのだ。まさか、無類の教養と頭脳をもつフランソワがイスラム教徒に・・。意表を突かれたのだった・・。ただ、この小説、フランスで苦しい生活を強いられているイスラム教徒や、中近東の現在の厳しい混乱など一切言及されていない。この学長によれば、イスラム教は貧富の差を公然と認める教義をもつそうだ。とにかくヨーロッパ社会がイスラム教にそうとう侵食されている社会だということが、ひしひしと感じられる小説だった。

by engekibukuro | 2015-10-26 10:41 | Comments(0)  

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