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5月22日(日)嵐山光三郎「漂流怪人・きだみのる」

 今の人にはよく知られていないだろうが、きだみのるは私は大好きな作家だった。主著は「気違い部落周遊紀行」という作品で、これは渋谷実監督が映画化した。私が愛読したのは「道徳を否む者」とい自伝的作品。家庭的不幸で、北海道のトラピストで自殺しようしたとき、フランス人のジョセフ・コットという人に救われた。このジョセフ・コットと言う人は、アテネフランセの創立者だ。それいらいアテネで育てられ、フランス語、ギリシャ語を学び、フランスへ留学し、アテネの教師になる。この小説で、留学から帰ってきたときジョセフ・コットが”ボンニュイ・モンプチ”といって迎えた場面が忘れられbない。きだは、フランスでマルセル・モースに社会学を学んだ社会学者でもあり、本名の山田吉彦の名で、岩波文庫のファーブルの「昆虫記」を林達夫と共訳している。それに「モロッコ紀行」と言う名作もある。この本は、「気違い部落」のモデルになった八王子の集落に住んでいる時代のきだが、70代にさる女性に産ませたミミ君と暮らしていた。嵐山は自分が当時勤めていた平凡社の「太陽」と言う雑誌の仕事で、きだ親子と一緒に旅した思い出がを書いた本だ。名作だ。この本で、きだが衰えてミミ君を手放して、直木賞作家の三好恭三の養女にしたいきさつが、ちゃんと書かれていて、長年の疑問が氷解した。さらにこの本の魅力は、旅の途中で、その地の特産物で作る料理の描写が素晴らしい。その豪快なこと!長野の伊那で馬肉を3キロ買って、1・5キロはニンニクでで刺身で喰い、残りの半分はひき肉にしてパリ式タータル・ステーキを作る。ブリキの洗面器で塩、こしょう、しょうが、レモン、さらに卵の黄身7個に味噌とブランデーを混ぜて、そのうえにミョウガを加える。その他、いろいろあって、日本中をどぶねずみ号というオンボロ車を運転して漂流し、じょじょに老化してゆくありさまが描かれて、ページをめくるのがホントに惜しい本だった。出版は小学館。
・オークスはシンハライトとチェッキーノで堅く収まった。人気というものは案外確かだなと思った次第だった。

by engekibukuro | 2016-05-23 10:47 | Comments(0)  

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