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5月24日(火)津島佑子「電気馬」新潮社

 
 この短編集、現代の民話だが、津島の文章の迫力に感動した。
 例えば「オオカミ石」
”六匹のオオカミの形に見える石が、岩手と秋田の国境辺りの峠にある。とはいっても、その石が実際にあるのか、それとも、あったのか、このオオカミ石は話としてちたわっているだけなので、付近に住む人たちも確かめようがない。いずれにせよ、明治時代に絶滅されたとされるニホンオオカミがまだ、数多く日本列島のあちこちを駆けまわっていたころに語られはじめた話にちがいなく、今の時代、オオカミ石を探し出そうにも、あまりに時間が経ちすぎている。”。・・・そして、現代の薄幸の女レンは・・自分の不幸を漁る狼たちに叫ぶ・・。
”おまえら、どんなにわたしはおまえらを憎んできたことか。もう、わたしは我慢できない。お前らが憎い。憎い。そんなにこのわたしを食いたいなら食え。憤怒といものを食えるもななら食ってみろ。祟りだって?呪いだって?。ああ、わたしは人間がが憎い。わたしの悲しみ、苦しみはあまえらのためにあるのではない。おまえらはもう、なにも言うな。同情する振りはもうやめろ。おまえらの自己満足が我慢できない。愚かなおまえら。残酷なお前ら。
 レンの眼からは、涙が火の粉のように飛び散った。その体は今まで長い時間をかけて蓄えつづけてきた憤怒がかがやきはじめた。
 眼の前のオオカミたちは唸り声をあげつつ、次第に首をうなだれ、耳を倒しはじめた。そして、レンの足に鼻面を押し付けてくる。いったい全部で何匹いるのか、レンには勘定する気もない。”

by engekibukuro | 2016-05-25 10:47 | Comments(0)  

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