8月10日(水)津島佑子「あまりに野蛮な」

(上・下)講談社 文芸文庫s
 主人公は二人、一人は1930年代に台湾で暮らす、台北帝大でフランス社会学を講ずる助教授の妻ミーシャ、一人はそのミーシャの姪でたった一人の息子を小さいとき事故で亡くしたリーリー。ミーシャとは本名は美世だが、夫の知り合いのロシア人の老婆に呼ばれたニックネーム、リーリーは茉莉だが、なぜかリーリーという名で描かれる。1930年代に台湾で暮らすミーシャと、2005年に台湾に叔母のミーシャを偲び、亡くした息子の追憶を思いきりたく、台湾に旅して、戦前の日本占領下で暮らしい、日本語もわかる山奥の原住民を訪ねるリーリーの物語が交互に描かれてゆく。同じ台湾という舞台の時間を隔てた叔母と姪の物語の対比の鮮やかなこと!戦前のミーシャの夫の明彦への複雑な愛の形、それをとおして戦前日本の雰囲気、夫の専門とするフランス社会学のデュルケムの「自殺論」の話、その頃の台湾のでの日本人の暮らしがその空気まで感じられ、戦後生まれのリーリーの気持ちの動きは、なぜか台湾の奥へ奥へとすすんでゆくのだ・・・。79歳になって、津島の「黄金の夢の歌」や「ジャッカ・ドフニ」という傑作を読み、さらに今回の「あまりに野蛮な」を読むと、なぜ今まで読まなかったのかと思う。津島は2016年1月に亡くなっているのだ。まさしく津島の文学は、父太宰治と充分匹敵する日本文学の豊かさを感じさせるのだ。!
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by engekibukuro | 2016-08-11 10:07 | Comments(0)  

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