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12月6日(火)


 「群像」12月号
 服部文祥「息子と狩猟に」
 都会の狩猟愛好家が、小学校生の息子を連れて鹿狩りにゆく。熊もでる。「本当に獲物と遭遇したのか、白昼夢だったのか、一秒ごとに自信がゆらいでゆく。(中略)あーっと声を漏らしながら地団太踏むぐらいいしか、することがない。」鹿を撃ち損ねた瞬間の父親の心理描写。高揚から落胆へ。命中したとき、しなかったとき。アドレナリンほ行方がどの箇所にも書けている。しかし、実は冬山の鹿狩りは作品の半面でしかない。「あー、大井町警察署、交通課のフジモトです」。冒頭すぐの台詞。「振り込み詐欺」の電話だ。父子の狩りと並行し、詐欺集団の生態が描かれる。組み合わせに面食らう。けれどすぐ説得される。人が自然界で獣を狩るように、詐欺集団は人間社会で無防備な独居老人の財産を狩っている。共に狩りなのだ。狩りを準備し鹿を解体する描写同様に、詐欺集団の手口も綿密に綴られる。詐欺犯のリーダーは少年時代の「獣狩り」の快感を「独居老人狩り」に重ねているようだ。犯罪に向けてのアドレナリンの出方も良く家格書かけている。そして詐欺集団に内紛が起き、リーダーはそこで出た死体を始末すべく冬山に向かう。二つの狩りはついに交差。父子と詐欺犯のどちらが狩られるか。ナードボイルドの傑作だ。
・以上、朝日新聞、片山杜秀の文芸時評に拠る。たしかに傑作だ・・。面白かった。

by engekibukuro | 2016-12-07 07:46 | Comments(0)  

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