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3月13日(月)



 又吉直樹の新作「劇場」(新潮4月号)を読んだ。まず切ない心に染みる恋愛小説として成功してい
 る。ヒロインの沙希という女性が、いまどき、こんな女性がいるのかと思うほど見事に描かれている。主人公は脚本家・演出家として、そして小さな劇団の主宰者だ。主人公が沙希の家に転がり込む部屋は下北沢で、この小説の魅力の一つである、下北沢の劇場や小さな公園など、演劇関係者にはおなじみの風景が活写されていて、臨場感をつんらせる・・・。そして基本は、主人公の劇団活動の厳しさと生活のたいへんさだが、この主人公の語る小劇場のいろいろの困難や、演劇風景が私など、ほんの表面しか見ていなのだなと、つくづく思わせられた小説だった。具体的な劇作家や演出家などの名前がでてこないので、よくわからないこともあるが、この主人公が日夜悩みながら目指す演劇とはどういうものなのか、今一つつかめない。しかし、困難と闘いながら目指すべき演劇へ真摯に取り組んでいる主人公の姿、それを最後には破たんするが支え続けた沙希という女性は忘れ難いイメージを確かに残した小説だった。これから、小劇場の芝居を観る目を深めてくれたのだ。

by engekibukuro | 2017-03-14 09:47 | Comments(0)  

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