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8月21日(火)内田洋一「風の演劇 評伝別役実」(白水社)

本書は大げさでなく空前の名著である。現在パーキンソン病で老人ホームで療養中の戦後演劇の巨人の演劇とその人生を劇作家の論じて余すところがない書だ。”電信柱とベンチ。たったそれだけの舞台で、宇宙的な広がりをもつ不思議な芝居がはじまる。男1、女1という名前を持たない、さまよえる民が現れ、いつしか奇妙なお茶会やコントのようなお遊びがくりひろげられる。それが電信柱のある宇宙とも言われる、別役実さんの不条理劇である。風の気配がたちこめる虚空はどこから生まれてくるのか。その謎にひかれ、私は別役実へのあてどない旅に出た。”(本文より)。”日本のベケットと称賛され、新たな現代劇を構築した劇作家の半生を、ロングインタビューを交え、膨大な取材から描く”本書は、第一章 風の演劇、第二章 満州に生まれて、第三章 引揚者家族、第四章 政治の季節、第五章 不条理劇発見、第六章 言葉の戦術、第七章 童話のように、第八章 喜劇の精神 として構成され、最後に詳細な全戯曲144本の、上演記録を含む戯曲総覧が付加されている。なにしろ別役の故郷、旧満州のハルビンまで取材の旅に出るのだ。内容がパンパンに充実した素晴らしい本である。
「凡そ君と」句:”湯の町に古る青蔦の秘宝館”、”黒南風や水門閉じし向島”

by engekibukuro | 2018-08-22 06:59 | Comments(0)  

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