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12月11日(火)★M「満天の桜」★★S「トロイアの女たち」

★作:畑澤聖悟、演出:丹野郁弓、劇団民藝、三越劇場。
 畑澤の昨年の「カミサマの恋」に引き続きの民藝への書き下ろし作品。これは珍しくも時代物で、政略結婚の網を日本中に張り巡らした徳川家康が、養女満天姫を一旦は芸州福島家の正之に嫁がせたが正之が獄死し、津軽藩に再嫁させる。満天姫には幼い頃から付き従っている女中頭松島がいて、この松島を奈良岡朋子が演じる。この松島が、今では有名な桜の名所になってい津軽弘前の桜を植えた発祥の人物らしい・・。満天姫が連れて行った福島正之との実子直秀が福島家の再興を企み、津軽藩を窮地にさせるのを阻むため、満天姫と松島は直秀を毒殺する・・。津軽では知られた話らしい。だが、この芝居観ていて余り手ごたえがない。私は高校演劇を除いて、畑澤の東京にきた芝居は殆ど観ているが、ことごとく凡作がなく、民藝の去年の「カミサマの恋」も大劇団への初の書き下ろしとして充分に見応えがある作品だった・・。だが、今回の芝居は畑澤らしいところが感じられないなんだかごく普通の書きっぷりの芝居で、三越劇所向きの芝居だということかしら・・。期待が大きすぎたのかなとも思うが、ただ、大滝秀治なきあと民藝を率いる奈良岡の女中頭の凛としたたたずまいには感服した。
★★作:エウリピデス、演出:蜷川幸雄、翻訳:山形治江、東京芸術劇場・テルアビブ市立カメリ・シアター国際協同制作、東京術劇場プレイハウス。4年越しの共同企画が困難をのり越えて実現した舞台だ。アラブ系、ユダヤ系、日本人の俳優たちが、それぞれアラビア語、ヘブライ語、日本語で演じるギリシャ悲劇。中心はトロイア戦争でギリシャに滅亡されたトロイア庵の王妃ヘカベ、このヘカベを演じる白石加代子が磐石の存在感で、アラブ系、ユダヤ系、日本人の15人のコロスを率いて舞台を支配した。戦争の惨禍を一身に背負わされる女たちの怨嗟の声を、客はまず日本語で聞き、それをヘブライ語、アラビア語できき増幅してゆく・・。それぞれの国・土地に暮らす俳優のアイデンテイテイに根ざした演技の差異が、遠く古代ギリシャの戦争の淵源まで届き、女たちの古代からの絶えることのない不幸を感じさせずにいない。この戦争が、神々のいたずらのような気まぐれで発祥し、絶世の美女ヘレネの争奪戦のような趣きが、現実の惨禍を招きよせるという人間の愚かさ、度し難さが伏在していて、一義的な反戦劇ではない。これは訳者山形治江の名著「ギルシャ劇大全」で、この劇が、単に戦争の悲惨さを訴えるだけの「反戦劇」ではなく「率直にいえば、反戦という大義名分をふりかざして被害者の不幸だけを演じてよしとする舞台は、じつのところ、本劇の本質を伝えていないのではないかと思うのである:と書いている。蜷川演出も、その複雑性を直視し、イスラエルとパレスチナの終わりが見えない敵対関係の緊張感の気配、現下の一発触発の情況、さらに大地震の恐怖の予兆など、今の人間世界をおおっている感触を色濃く描き出しながら、人間というものを根本から問いただす劇としてのギリシャ劇の本来の使命を果たしていた。蜷川も出てきたアk-テンコールは満場のスタンデイングオベレーションで迎えられた、困難を乗り越えた初日だった。

# by engekibukuro | 2012-12-12 11:15 | Comments(0)  

12月10日(月)

▲「悲劇喜劇」1月号を読む。特集は<井上ひさし>。巻頭の編集部(今村麻子)と蜷川幸雄の対談「井上ひさしを伝える」が特段面白い・・・。蜷川がざくばらんに井上のことを話していて、興味深い話が満載・・、特に蜷川と井上の新劇とのかかわりが、微妙にすれちがっていて、ようやく一緒に仕事ができるような道筋がよくわかったこと。また、井上の後期のシリアスな作品より初期の奔放きわまりない芝居を評価するのもうなづける。ただひとつだけ蜷川が木村光一のことを”東大でのインテリ”といっていたが、東北大じゃないかしら・・・。再演された「組曲虐殺」の出演者たちによる座談会も興味深いものだった。小林多喜二への見方のジェネレーションギャップを感じて、時代の推移をまざまざと思い知らされた。
▲六本木の新国立美術館に初めて行く。「リヒテンシュタイン 華麗なる侯爵家の秘宝」展。六本木の駅か美術館まで、こんな立派な地下道があるとは、これも初めてで、地上に出たら、ここが六本木のどのあたりかさっぱりわからなかった・・。とくにバロック絵画の蒐集とかは勉強になったが、この絵画展の目玉のルーベンスのダイナミックな絵画群は、目を見張るようなドラマテイックなもので感動する。そしてブリューゲルの<フラドルの人口調査>を見て、勉強気分が消えてほっとする・・。この細かく描かれた無数の民衆が、みな生動して生きている・・。ビュルーゲルは時代を超えてたまらなく面白い・・。
▲夜は神保町の萱で、久しぶりに同時代社社長の川上徹さんに会う。お互い病気持ちで、老人性欝にも罹患していてとか話題はどうもだが、川上さん”今の日本のていたらくなんだ、日本は滅びる””だけどお孫さんはどうなるの”みたいな会話で・・。川上さんは日比谷高校、東大、民青系全学連委員長の経歴をもつエリートだが、”これを言うとみな笑うんだよ”と自虐ぎみで、全くトシをとるのは難しいものだ・・・。

# by engekibukuro | 2012-12-11 10:45 | Comments(1)  

12月9日(日)M:リーデイング公演「回転する夜」

作:蓬莱竜太、演出:和田憲明、ウオーキング・スタッフプロデュース、サイスタジオ コモネA。
この作品は、初演時の評価が高く、蓬莱の代表作のひとつだ。架空の地方の町の海辺の洋館風の家の部屋。この家の持ち主の貿易会社の社長夫妻は海外に逗留中で、若い兄弟が暮らしている。舞台はあその弟の部屋、この部屋には冷蔵庫からオーデイオまで電化製品がすべて揃っている。会社を兄弟のどちらが継ぐのかが問題になっているような情況で、この部屋に町の兄弟の友達が集まってきて、あれやこれや兄弟について喋りまくって、さらにそこに弟の家庭教師をしていた女の芳しくない噂を話題にして、その女が兄と結婚するという意外な顛末へ・・・。そういうことが、幾晩かの時間が錯綜した雨の夜の話として分断されたシーンとして提示される。まったく同じシーンの繰り返しのようでいて、そこに微妙な差異があって、でてくる人物の言動が異なってくる・・。中心は弟の視点で、彼の目に映る兄や女の言動の一種の不可解さを客と共有するような仕組みになっている。弟は一日中家に居て目的もあまり判然としていない勉強をしているが、兄はどこでもいいから働きに出るように促しだす・・・。この劇が、ひきこもりがちの一人の青年が、自立して世の中へ出てゆく過程を独創的な仕組みで展開したものだ・・。最後に迷いをふっ切って働く決心をして自転車で出てゆく、それを見ている兄夫婦に手を振って挨拶・・、なかなか感動的なのだ・・。蓬莱の世界を和田特有の切れのいいテンションで聴き・見応えがあった上演だった。キャストは弟ノボルが遠藤雄弥、兄サダオが多根周作、兄の嫁が内田滋、友達たちが伊達暁、原慎一、逸見宣明、ト書き語りが酒向芳。みんなよいアンサンブルを作っていたが、内田の謎めいた女の気配が印象的だった。

# by engekibukuro | 2012-12-10 08:31 | Comments(0)  

12月8日(土)★宇宙みそ汁★★無秩序な小さなコメデイ

★作:清中愛子、構成・演出:坂手洋二、★★作・演出:坂手洋二、燐光群、梅が丘BOX。
 ★は2011年三田文学新人奨励賞を受賞した詩人清中愛子の詩作品。これを坂手が他の清中の書き物をまじえて構成したもの。清中は京浜工業地帯のうらぶれたアパートに住んでいる主婦だそうで・・。その主婦が、”地球に向ってただ一人、パラシュートで降り立っていくエプロン巻きつけ私が降り立ったのは”・・わかめと豆腐と葱の味噌汁のなか・・。広大無辺の宇宙のヴィジョンと極小の貧しく侘しい人間の瑣末な生活の情景を対比させ、笑ちゃうしかない現実を描き出す、特異で結構懐が深いポエジーが快い・・、京浜工業地帯で働く職人たちの肖像も、彼らへの愛着も伝わってくる・。燐光群総出の役者陣もたっぷりした手仕事で気持ちのよいものだった。”主婦愛子”のトップランナーを演じている円城寺あやを狭い舞台で間近で観て聞いていると、夢の遊眠社時代の飛んだり跳ねたりの彼女をおもだして、とても懐かしかった・・。
★★は「入り海のクジラ」「利き水」「じらいくじら」の3本の短編集。鯨は坂手のお馴染みの動物でお手の物だが、中では「利き水」が秀作だった。利き酒のように水の水w優劣を判断する、利き水の名人のバーテンダーが、原発事故いらいの日本中の水が何らかの汚染を感知するという、坂手の天才的な情報収集能力と一種の詩情が渾然一体となって、坂手ならではの、坂手の真骨頂だと思わせる忘れがたい作品にあんっていた・・。

# by engekibukuro | 2012-12-09 10:04 | Comments(0)  

12月8日(土)★M グローブ座・★★S 座・高円寺

★ミュージカル「女子高校生チヨ」(原作:ひうらさとる、脚本:斉藤栄作、演出:板垣恭一、音楽監督:長谷川雅大、アトリエ・ダンカン。女子高校生チヨの高校は定時制で、おんトシ65歳、このチヨをなんと木の実ナナが演じる。これがさらにデビュー50周年の記念公演でもあり、開幕、舞台中心に現れたミニスカートのセーラー服姿のナナにはあたりを圧するオーラが漂った・・。3年前に夫を亡くした思うところがあって定時制に入学したのだったが、このこ話に高橋愛が演じる孫の鞠子がからむ・・。いまどきの定時制は年齢もバラバラだし、いろんなタイプの男女がいて起こることが起こり、鞠子の影の応援でなんとかみんなについていっているチヨだったが・・。そして定番の学園祭に向って教室みんなが困難を乗り越えて・・。現在、定時制は減少してゆく一方あrしいが、このお舞台は定時制への応援歌にもなっていて、学園祭の「シンデレラ」はシンデレラに特別出演の鞠子が扮して大成功・・。カ-テンコールでナナが”わたしがデビューしたのは昭和37年で、そのときツイストが大ハヤリでみな朝から晩まで踊っていたのよ、いい機会だからさあみんな立って、踊りましょう”と客席に呼びかけ、全席総立ちで踊りだした・・わたしの前のおばあちゃんも嬉しそうに手足を揺らしていた・・。
★★「あつ苦しい兄弟」(<あつい編>ー作:桑原裕子、演出:青山勝。<苦しい編>:作・演出:中島淳彦、劇団道学先生)。両編連続して上演するが、兄が青山勝、弟が村田雄浩の物語。話の軸は兄の妻(西山水木)をめぐるねじれ話、兄は妻を弟から奪ったのだ・・。弟はテレビ映画の監督で舞台はスタジオも兼ねたマンションの部屋。<あつい編>は、いまはダンス教室を開きダンス教師をしている妻と兄夫婦に両方の浮気疑惑で暗雲がたちこめまわりを巻き込んでゆく話、<苦しい編>は兄弟が老齢期を迎えていて、兄はアルツハイマーになってしまって・・。なにしろ桑原も中島も興味深々のエピソードの名手で、特に中島は当代きってのウエルメイドプレイの第一人者、それを村田、青山、水木のほか兄弟の従兄弟のゲイをやりすぎぐらいに演じる井之隆志、道学先生のヒロインか
んの ひとみなど芸達者、山本芳樹、荘田由紀の若手、女優としての桑原裕子が思う存分演じるので、賑やかきわまる舞台で、特にラジオ体操の女神といわれるラジオ体操の先生になる桑原のグラマーぶりも目を奪う・・、しかし、朝起きて今日一日をどう過ごすか全くわからない老人たちが、公園に毎朝、ラジオ体操のグラマーの女神に熱い視線を送るのだ・・。そのことに特化はできないが、この芝居が高齢者社会の老人たちの先の見えない不安に棹差す芝居として、私のような老人の胸を打ったのだ・・。これも村田、青山、水木のしっかりした演技が支えたよくできた芝居だからこそだが・・。傑作だ・・。

# by engekibukuro | 2012-12-08 10:41 | Comments(0)